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2007.4.24 (Tue)
▼グラディス・ミッチェル『ウォンドルズ・パーヴァの謎』(1929)

★★
The Mystery of a Butcher's Shop / Gladys Mitchell
清野泉 訳 / 河出書房新社 / 2007.4
ISBN 978-4309801049 【Amazon】
ロンドン郊外のウォンドルズ・パーヴァで殺人事件が発生。マナーハウスの主人が行方不明になった後、肉屋で首のないバラバラ死体が発見される。
古き良き牧歌的推理小説。首のない死体とは言いながらも探偵 VS 犯人のような知的闘争の味はほとんどなく、複数人物が死体と何らかの関わりを持つことで謎が深まっている。もつれた糸を徐々に解きほぐしていくプロセスは面白かったものの、切断犯を導くミセスの推理があまりに胡散臭くて首を傾げてしまった。○○はこういう性格だから△△したのよ! なんてヒステリックに喚かれても俄には賛同しがたい。お前は俗流心理学で社会を「分析」するメディア御用の精神科医かよと思ってしまう。人物の類型化を生活の知恵に転換したミス・マープルものが、いかに良くできているかということを改めて実感した。
勝ち馬に百対八で有り金全部を賭けたのに、ノミ屋にベルギー行きの高速船に乗って逃げられてしまったようなものですよ。(p.26)
伯母さんが抑圧的な人物として描かれたり、ラストで若い男女を結びつけたりするところがイギリス流。また、上記のような機知に富んだ比喩表現が散見できるのもイギリス流である。
2007.4.28 (Sat)
▲エミール・ハビービー『悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事』(1974)

★★★
al-Waqai al-Ghariba fi Ikhtifa Said Abi al-Nahs al-Mutashail / Emile Habiby
山本薫 訳 / 作品社 / 2006.12
ISBN 978-4861821080 【Amazon】
イスラエルの建国によって祖国を失った、パレスチナ人サイードの不条理な半生。コラボレーターとして当局に仕える彼が、様々な危機に見舞われつつ持ち前の諧謔を発揮していく。
イスラエルに留まったパレスチナ人の苦難を、ユーモアとアイロニーを交えたトールテール的なセンスで綴っている。ヤスミナ・カドラの『テロル』は、自爆テロを通して問題の一端を垣間見せるような趣向だったけれど、こちらはサイードの流浪の生活を通して、パレスチナの凄惨な歴史を紙上に投射している。『テロル』が外から井戸の底を眺めた小説だとすれば、こちらは井戸の底を這いずり回った小説だといえるだろう。『ケリー・ギャングの真実の歴史』のような不条理人生と、『イリワッカー』のような怪しげな語り口ということで、英国人作家のピーター・ケアリーを思い出した。
どうもパレスチナ問題は思っていたより複雑らしい。同じパレスチナ人でも、イスラエルに残ったか残らないかで立場が違うようだ。本作のケースだと、まるで植民地時代の原住民のような扱い。ユダヤ人を誘致するには土地が足りないということで、パレスチナ人の土地を収奪し、彼らを囲い込んで監視を続けている。しかも、取り上げたのは土地だけではない。「パレスチナ人は国家のもの」というジャイアンもびっくりの強権を振るって、財産まで没収している。いったいいつの時代だよと思うけれど、これが第二次大戦後の話なのだから恐ろしい。本書はイスラエルに馴染みのない読者にも事情が分かるよう、265にも及ぶ詳細な訳注(それに地図・年表も!)がついていて参考になる。