2008.1b / Pulp Literature

2008.1.11 (Fri)

イアン・マキューアン『土曜日』(2005)

土曜日 (Shinchosha CREST BOOKS)(109x160)

★★★★
Saturday / Ian McEwan
小山太一 訳 / 新潮クレスト・ブックス / 2007.12
ISBN 978-4105900632 【Amazon

反戦デモが活発化した2003年の土曜日。脳神経外科医のヘンリーが、未明に炎上中の飛行機を目撃する。その後はスカッシュを楽しんだり、娘と討論したり、認知症の母を見舞ったりするも、ふとしたことから日常を揺るがすある出来事に遭遇する。

世界との関係を絶やしたくないという衝動、全世界を覆う不安の共同体の一員となりたいという衝動は現代の病だ。ここ二年でその習慣はいっそう強まり、凄惨かつ視覚的衝撃の大きい場面が繰り返されるにつれてニュースバリューの基準が変化してしまった。政府の勧告――欧州ないし米国の都市への攻撃は避けがたいという――は、単なる責任逃れではなく、刺激的な約束でもあるのだ。みんながそれを怖れてはいるが、人間の集合意識の奥にはより暗い欲望が、自己を罰したいという強い衝動と冒涜的な好奇心が潜んでいるのだ。(p.213)

妻は弁護士、息子はミュージシャン、娘はデビュー直前の詩人。義理の父は高名な詩人で、最近は孫娘との仲がぎくしゃくしている。今日は3年ぶりに仲直りさせようとするが……。

とまあ、そういうハイソな家庭の1日が、イラク戦争前のデモを背景に語られる。一読して驚くのが、脳神経学を中心とした医学的ディテールの確かさだ。「謝辞」によると、2年にわたって手術の様子を見学し、専門医から教えを受けていたようである。医者の生活をトレースするために、ここまで多大なコストを費やすとは。なるほど、これがトップランナーの拘りってやつなのだろう。登場人物に厚みをもたせるべく、数年単位の徹底したリサーチを行う。本作みたいな骨太のフィクションは、日本ではなかなかお目にかかれないと思う。何せほとんどの作家は収入の道に乏しく、生活のためにやむなく量産しているのだから。あったとしても、せいぜい取材内容をばかすか詰め込んだ「お勉強小説」が関の山。例外は高村薫や佐藤亜紀くらいのものだろう。

ポスト9.11の小説ということで、イラク攻撃をめぐるヘンリーと娘の議論が面白い。2人は武力行使すべきかで意見が対立しているのだけど、その論法が我々のものと大して変わってなくて苦笑してしまう。反対派としては、ネオコンを主体としたアメリカの欺瞞と、戦争による一般市民への被害が、主張の根拠となるのだろう。おまけに、自国がテロの標的にされるという懸念もある。一方で、武力行使に及ばないと、フセインに弾圧された者たちを解放することができない(フセインは恐怖政治で有名だ)。いつまでも圧政が続いて、無辜の民を苦しめることになる。ヘンリーはリベラルなインテリという立場上、公然と武力行使に賛成することはしない。と同時に、反対派よりは現実的な視野を備えているぶん、能天気な平和主義を唱えることもしない。結果、ヘンリーは「賛成」も「反対」も明言しない、中途半端な立場に甘んじることになる。

世界的な関心が集まった話題とはいえ、幸せな家庭を脅かすのは何もテロだけではない。むしろ、テロはブラウン管の向こう側の出来事であって、ここロンドンではまた違った現実が待ち受けている。日常に恐怖を取り入れるのはマキューアンの十八番で、時に作り物っぽい印象を与える。けれども、テロを遠景とした本作では上手くつぼにはまっていて、問題に目を向けさせるような効果が生まれていると思う。

>>Author - イアン・マキューアン

2008.1.13 (Sun)

國文學編集部『幻想文学の手帖』(2007)

幻想文学の手帖−知っ得(114x160)

★★★
学燈社 / 2007.10
ISBN 978-4312700254 【Amazon

幻想文学のブックガイド。「アッシャー家の崩壊」を基準とした、東西の幻想文学を紹介している。評者は高山宏、笠井潔、石原千秋、四方田犬彦、荒俣宏ほか多数。

印字が薄かったり、取り上げている本が古かったり、全体的にレトロな雰囲気。あらすじの他に評者なりの読解が添えられていて、ちょっとした評論集みたいになっている。本の性質上、どれも核心部分までネタを割っているので、気にする人は注意が必要だろう。

『銀河鉄道の夜』【Amazon】の項では、ジョヴァンニが乗り込む車室空間を<空飛ぶ教室>に見立てている。また、『壁』【Amazon】の項では、名前とアイデンティティに着目して実存の問題を論じている。未読の作品については断言できないけれど、総じて堅実な読み方をしているんじゃないかと思う。これから幻想文学を押さえていくにあたって、色々と指標になりそうな本であった。

以下、本書で紹介された作品のリスト。

  • 幸田露伴「対髑髏」【Amazon
  • 泉鏡花『草迷宮』【Amazon
  • 坂口安吾『桜の森の満開の下』【Amazon
  • 島尾敏雄『夢の中での日常』【Amazon
  • 江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』【Amazon
  • 夢野久作『ドグラ・マグラ』【Amazon
  • 中井英夫『虚無への供物』【Amazon
  • 澁澤龍彦『うつろ舟』【Amazon
  • 夏目漱石『夢十夜』【Amazon
  • 内田百ケン『冥途』【Amazon
  • 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』【Amazon
  • 埴谷雄高『死霊』【Amazon
  • 安部公房『壁』【Amazon
  • 村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』【Amazon
  • 井上ひさし『吉里吉里人』【Amazon
  • 筒井康隆『虚航船団』【Amazon
  • 佐藤春夫「西班牙犬の家」【Amazon
  • 三島由紀夫「豊穣の海」【Amazon
  • 石川淳『狂風記』【Amazon
  • 荒俣宏『帝都物語』【Amazon
  • エドガー・アラン・ポー「アッシャー家の崩壊」【Amazon
  • ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』【Amazon
  • ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』【Amazon
  • メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』【Amazon
  • エリアス・カネッティ『眩暈』【Amazon
  • レーモン・ルーセル『ロクス・ソルス』【Amazon
  • 『ヨハネの黙示録』【Amazon
  • ドニ・ディドロ『ダランベールの夢』【Amazon
  • E・T・A・ホフマン「ブランビラ姫」【Amazon
  • ルイス・キャロル「アリス・ストーリー」【Amazon
  • フランツ・カフカ『変身』【Amazon
  • フランソワ・ラブレー『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』【Amazon
  • ロレンス・スターン『トリストラム・シャンディ』【Amazon
  • トマス・ピンチョン『V.』【Amazon
  • ジョナサン・スウィフト『ガリヴァー旅行記』【Amazon
  • ボナヴェントゥーラ『夜警』【Amazon
  • ジェラール・ド・ネルヴァル「十月の夜」【Amazon
  • アルフレート・クービン『裏面』【Amazon
  • オノレ・ド・バルザック『セラフィタ』【Amazon
  • ハーマン・メルヴィル『白鯨』【Amazon
  • ヘルマン・ヘッセ『デミアン』【Amazon
  • ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』【Amazon
  • イタロ・カルヴィーノ『宿命の交わる城』【Amazon
  • ジョン・バース『やぎ少年ジャイルズ』【Amazon
  • ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』【Amazon

2008.1.14 (Mon)

手塚治虫『手塚治虫西部劇傑作集』

手塚治虫西部劇傑作集−二階堂黎人が選ぶ! (ちくま文庫)(99x140)

★★★
二階堂黎人 編 / ちくま文庫 / 2004.6
ISBN 978-4480420220 【Amazon

アンソロジー。「荒野の弾痕」、「火の谷」、「化石島(抄)」、「漫画大学(抄)」、「凸凹牧場」、「ほろ馬車くん」、「西部劇漫画と私」、「光線銃ジャック」、「ミュータント」、「化身」、「ドースン一家の記録」、「グランドメサの決闘」、「無法の街」、「サボテン君(抄)」の14編。

媒体によって絵柄や内容が違っていて面白い。少年向けでは柔らかい絵柄、青年向けでは劇画調になっている。

以下、各短編について。気に入った短編には末尾に☆をつけた(14編中5編につけた)。

「荒野の弾痕」(1957)

南北戦争後。列車強盗のダッドが生まれ故郷に帰る。密かに潜入した部下が町でもめ事を起こす。

ダッドは南軍の元将校なのだけど、今は強盗を生業にしているということで、家族と複雑な関係になる。部下と対決したり、アパッチ族が現れたり、息をつかせぬ展開で面白い。エンターテインメントのお手本のような漫画だった。☆。

「火の谷」(1960)

呪いの拳銃にまつわる話。

川で男が突っ伏している冒頭が印象的。最初のナレーションで、「のどのかわきのほかは/なにひとつない」とあったから、てっきり水でも飲んでるのかと思ったら、実は背中を撃たれた死体だった。後にこれと照応する場面が出てきてますます印象を強める。☆。

「化石島(抄)」(1951)

白人の子がインディアンの仲間になってたり、酋長の子が白人の仲間になってたり。

「漫画大学(抄)」(1950)

流れ者が銀行強盗を撃退、その町のシェリフになる。町の住人は擬人化した動物たちだった。

善玉の椅子は一つしかなく、最初の男はあっさりダークサイドに移ってしまった(実は北軍のスパイだった)。空いた椅子にウサギくんが座って悪と対決する。

「凸凹牧場」(1951)

2人組の放浪者がカウボーイとして牧場に就職する。

ギャグ漫画。互いに足を引っ張りながらも事件を解決する。2人組はタヌキとキツネを擬人化したもの。

「ほろ馬車くん」(1952)

がむしゃらなトニーと引っ込み思案なジニー。対照的な少年2人は、ほろ馬車隊と旅をしている。そこへインディアンが現れ……。

4段組みのせいか、コマが小さくて読みづらい。眼鏡会社の陰謀を疑うほどの小ささだ。前々から思っていたけれど、漫画を文庫化するなんて愚劣の極みだろう。なぜ普通のコミックで出さないのか。

「西部劇漫画と私」(1971)

エッセイ。もともと西部劇には関心がなかったとか、西部劇の魅力はパターンが決まっているところとか。

「光線銃ジャック」(1963)

放射能汚染によって都市を地下に避難させた時代。地球に帰ってきた男はお尋ね者だった。官憲に追われた彼は、調査用ロボットの一家に匿われる。

SFと西部劇はこんなにも相性が良かったのか。生活を共にすることでロボットに感情移入する。愛情あり自己犠牲ありと、普通に良い話だった。☆。

「ミュータント」(1971) / 『鳥人体系』より

鳥が地球を支配する時代。保護区に飼われている人間の1人が、とてつもない知能を持っていた。

「猿の惑星」ならぬ「鳥の惑星」。人間の1人が爆弾を製造して鳥の支配に抵抗する。太古の記憶が遺伝子に乗って現代に甦ったという設定。人間を懐柔するために鳥女をあてがうとか、サボテンの針を飛ばす銃器とか、異形な世界観に引き込まれる。☆。

「化身」(1973) / 『ブラックジャック』より

馬主の息子が敵対者の陰謀によって馬ごとトラックに轢かれる。危篤状態のなか、ブラックジャックの手術を受けるが……。

「ドースン一家の記録」(1961)

ならず者一家が父の遺言で宝探しをする。

4人兄弟中、3人がならず者、1人が保安官。保安官だけは血が繋がっていない。だから、兄弟の間にはしこりがあるのだけど、そういう状況から収まるべきところに収まっている。

「グランドメサの決闘」(1969)

18歳のスティーヴが父の仇に勝負を挑むも敗れる。その後、彼は法律を学ぶ。

さいとうたかをを彷彿とさせる劇画調の絵。母親がやたらセクシーでちょっとした濡れ場もある。

こういう因縁話は面白いね。仇のポリシーはユニークだし(敵の親指を吹き飛ばす)、ちんぴらだったスティーヴは白き道を歩むし、最後はサプライズがあるし。本書のなかではこれがベスト。☆。

「無法の街」(1951) / 『冒険狂時代』より

荒野に竜巻が発生し、侍が落ちてくる。その後は宝の地図を巡って騒動に。

解説にもある通り、三船敏郎出演の『レッド・サン』(1971)【Amazon】を思わせる。でも、こっちのほうが遙かに早いんだな。

「サボテン君(抄)」(1951)

教師がならず者と揉める。

コマがちっちゃくて読みづらかった。文庫で出すのやめようよ。

2008.1.15 (Tue)

ロジャー・パルバース『新バイブル・ストーリーズ』(2006)

新バイブル・ストーリーズ(112x160)

★★★
The Honey and The Fires Ancient Stories Retold for Our Times / Roger Pulvers
柴田元幸 訳 / 集英社 / 2007.12
ISBN 978-4087734614 【Amazon

旧約聖書を題材にした物語詩。「ノアの箱舟」、「バベルの塔」、「壁の文字」、「ダビデとゴリアテ」、「サムソンとデリラ」、「スザンナ」、「ヨブ」、「ヨナ」、「よきサマリア人」、「ヨシュア」、「ヨセフ」、「エステル」、「アダムとイブ」の13編。

「バベルの塔」では、塔を多民族が住む高層マンションに見立てて、コミュニケーションの断絶を明らかにしている。この塔は同時に地球のカリカチュアでもあるわけで、世界の紛争に通じる普遍性なんかも感じられる。「ヨブ」と「ヨナ」は運命を受け入れる話。天を呪いたくなるような苦難を穏やかな心持ちで乗り越えている。特筆すべきはヨブの達観ぶりだろう。まるで仏教の偉い人みたいに悟りきっている。掉尾を飾るのは「アダムとイブ」。この短編はとてもユニークで、ヘビの視点からエデンの成り立ちを描いている。本書は現代的な感性が投影されていて、なかなか奥の深い翻案だった。

ポエム文体(*1)というと、自己愛丸出しのイメージ――自分のことを「感受性豊か」と勘違いしたブロガーがよく使っている――があって内心ではバカにしていたけれど、本書を読むとそれは偏見だったかもしれないと考えを改めたくなる。普通の散文よりも文節ごとの重みが増していて、言葉が入ってくるような感覚は確かにある。正直、読み始めは地雷本を覚悟していたので、今回の読書はそれなりに有意義だった。

*1: 一文ごとに改行する文体。

2008.1.18 (Fri)

エドガー・アラン・ポー『エドガー・アラン・ポー短篇集』

エドガー・アラン・ポー短篇集 (ちくま文庫 (ほ18-1))(113x160)

★★★★
西崎憲 訳 / ちくま文庫 / 2007.5
ISBN 978-4480423214 【Amazon

短編集。「黄金虫」、「ヴァルドマール氏の死の真相」、「赤き死の仮面」、「告げ口心臓」、「メールシュトレームの大渦」、「アッシャー家の崩壊」、「ウィリアム・ウィルソン」の7編。

以下、各短編について。

「黄金虫」(1843)"The Gold-Bug"

語り手がサリヴァン島に住むレグラント氏を訪ねる。そこで黄金虫の話を聞かされたのち、一緒に宝探しをすることになる。

この小説を読むのは4回目くらいだけど、実は面白いと思ったことがないんだよね。お宝をゲットしてわくわくしようぜ! って話でもないし。語り手は目的も分からないまま探索に付き合うのであって、お宝ゲットのカラクリは事後的に知らされるのである。

というわけで、これは詩的調和と称される道具立てが肝なのだろう。羊皮紙に仕込まれた暗号とか、髑髏の目から黄金虫を垂らすとか。身も蓋もない言い方をすれば雰囲気小説。でも、ポーの小説ってみんなそうじゃないか? ★★★。

「ヴァルドマール氏の死の真相」(1845)"The Facts in the Case of M. Valdemar"

瀕死のヴァルドマール氏に医者が催眠術をかける。

どろどろした話で面白かった。催眠術といえば、フロイトの頃まで現役ばりばりの治療法だったからなあ。その技法が魔術の域まで達したときのスリル。確かにヴァルドマール氏にとっては、早く眠らせてくれってところだろう。★★★★。

「赤き死の仮面」(1842)"The Masque of the Red Death"

その国では疫病が蔓延し、人々は毛穴から血を吹き出して死んでいた。国を治めるプロスペル公は、廷臣たちと共に城郭風の大伽藍に蟄居し、疫病をやり過ごそうとする。

地獄のような外界をよそに公たちは悦楽の日々を送っている。しかし、偽りの平和も長くは続かない。仮面舞踏会に突如として闖入者が現れる。これはもう彼岸の世界と接触して発動するカタストロフィが素晴らしい。彼は赤き死を司った死神であると同時に、見捨てられた民衆の怨念でもあるわけだ。★★★★。

「告げ口心臓」(1843)"The Tell-Tale Heart"

殺人者の告白。老人の死体を隠蔽し、警察も軽くあしらおうとしたその時……。

自分のことを狂ってないと言い張る語り手が怪しすぎる。そういう奴に限って実は一番狂ってるんだよな。何せ殺害の動機からして尋常じゃないし。この小説の怪奇な雰囲気は、狂人が語るからこそのものだろう。心臓ネタだけに胸がドキドキする。★★★。

「メールシュトレームの大渦」(1848)"A Descent into the Maelstrom"

メールシュトレームの大渦から生還した男の話。

大渦にせよ渓谷にせよ、大自然を前にすると畏敬の念を抱いてしまう。たとえ神や仏を信じてなくても、この手の巨大現象には人智を越えた何かを感じる。思えば、恐竜やアフリカ象といった生物に対する興味も、結局はそこに行き着いている。あと、宇宙やら原子やらも。★★★★。

「アッシャー家の崩壊」(1839)"The Fall of the House of Usher"

アッシャー家の当主はキチガイ気味だった。彼の双子の妹は死体になっていたが……。

無機物も知覚を持つという思想。怪しげな書物の数々。そして、屋敷に安置された妹(それも双子だ!)の死体。アッシャー家の病的な雰囲気がひしひしと伝わってくる。妹にはご用心。★★★。

「ウィリアム・ウィルソン」(1839)"William Willson"

ウィリアム・ウィルソン(仮名)の回想。彼は学生時代、自分と同姓同名の男に出会った。ささやかな小競り合いの末、相手は姿格好や癖を真似るようになる。

分身テーマ。双子とドッペルゲンガーは似て非なるものだろうか。自分の鏡像が具現化して目の前に現れる。のみならず、往々にして相手は取り返しのつかない災厄をもたらす。姿形がまったく同じということは、光と影の交換可能性も秘めているわけで、つまり実存の危機を孕んでいるということなのだ。「双生児」で描かれた近親憎悪も分かるような気がする。★★★。