2008.7b / Pulp Literature

2008.7.11 (Fri)

小説のキャラクターベスト100(1900年以降)

今は無き『ブック・マガジン』が2002年に集計したリスト。作家、エージェント、編集者など、合わせて55人が審査している。

審査員が業界の人間であることを考えると、わりと穏当な結果と言えそう。1位のギャツビーなんかいかにも玄人受けしそうだし、2位のホールデンくんも鉄板だろう。以降、3位にH・H氏、4位にレオポルド・ブルームと、錚々たるキャラが続いている。

  1. ジェイ・ギャツビー / スコット・フィツジェラルド『グレート・ギャツビー』(1925)
  2. ホールデン・コールフィールド / J・D・サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(1951)
  3. ハンバート・ハンバート / ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』(1955)
  4. レオポルド・ブルーム / ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』(1922)
  5. ラビット・オングストローム / ジョン・アップダイク『走れウサギ』(1960)
  6. シャーロック・ホームズ / アーサー・コナン・ドイル『バスカヴィル家の犬』(1902)
  7. アティクス・フィンチ / ハーパー・リー『アラバマ物語』(1960)
  8. モリー・ブルーム / ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』(1922)
  9. スティーブン・ディーダラス / ジェイムズ・ジョイス『若い芸術家の肖像』(1916)
  10. リリー・バート / イーディス・ウォートン『歓楽の家』(1905)
  11. ホリー・ゴライトリー / トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』(1958)
  12. グレゴール・ザムザ / フランツ・カフカ『変身』(1915)
  13. 見えない人間 / ラルフ・エリソン『見えない人間』(1952)
  14. ロリータ / ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』(1955)
  15. アウレリャーノ・ブエンディア / ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』(1967)
  16. クラリッサ・ダロウェイ / ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』(1925)
  17. Ignatius Reilly / A Confederacy of Dunces, John Kennedy Toole, 1980
  18. ジョージ・スマイリー / ジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(1974)
  19. ラムゼイ夫人 / ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(1927)
  20. ビギー・トマス / リチャード・ホワイト『アメリカの息子』(1940)
  21. ニック・アダムス / アーネスト・ヘミングウェイ『われらの時代』(1925)
  22. ヨッサリアン / ジョーゼフ・ヘラー『キャッチ=22』(1961)
  23. スカーレット・オハラ / マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』(1936)
  24. スカウト・フィンチ / ハーパー・リー『アラバマ物語』(1960)
  25. フィリップ・マーロウ / レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』(1939)
  26. カーツ / ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』(1902)
  27. スティーヴンス / カズオ・イシグロ『日の名残り』(1989)
  28. コジモ・ディ・ロンドー / イタロ・カルヴィーノ『木のぼり男爵』(1957)
  29. くまのプーさん / A・A・ミルン『くまのプーさん』(1926)
  30. オスカル・マツェラート / ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』(1959)
  31. ヘイゼル・モーツ / フラナリー・オコナー『賢い血』(1952)
  32. アレックス・ポートノイ / フィリップ・ロス『ポートノイの不満』(1969)
  33. Binx Bolling / The Moviegoer, Walker Percy, 1961
  34. セバスティアン・フライト / イヴリン・ウォー『ブライヅヘッド再び』(1945)
  35. ジーヴス / My Man Jeeves, P. G. Wodehouse, 1919
  36. ユージン・ヘンダソン / ソール・ベロウ『雨の王ヘンダソン』(1959)
  37. マルセル / マルセル・プルースト『失われた時を求めて』(1913-27)
  38. ヒキガエル / ケネス・グレアム『たのしい川べ』(1908)
  39. キャット・イン・ザ・ハット / ドクター・スース『キャット イン ザ ハット』(1955)
  40. ピーター・パン / J・M・バリー『小さな白い鳥』(1902)
  41. Augustus McCrae / Lonesome Dove, Larry McMurtry, 1985
  42. サム・スペード / ダシール・ハメット『マルタの鷹』(1930)
  43. Judge Holden / Blood Meridian Cormac McCarthy, 1985
  44. ウィリー・スターク / ロバート・ペン・ウォーレン『すべて王の臣』(1946)
  45. スティーブン・マチュリン / パトリック・オブライエン『新鋭艦長、戦乱の海へ』(1969)
  46. 星の王子さま / アントニイ・サン=テグジュペリ『星の王子さま』(1943)
  47. サンティアゴ / アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』(1952)
  48. ジーン・ブロウディ / ミュリエル・スパーク『ミス・ブロウディの青春』(1961)
  49. ウイスキー坊主 / グレアム・グリーン『権力と栄光』(1940)
  50. ネディ・メリル / ジョン・チーヴァー「泳ぐ人」(1964)
  51. スーラ・ピース / トニ・モリスン『スーラ』(1973)
  52. ムルソー / アルベール・カミュ『異邦人』(1942)
  53. ジェイク・バーネス / アーネスト・ヘミングウェイ『日はまた昇る』(1926)
  54. フィービー・コールフィールド / J・D・サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(1951)
  55. ジェイニー・クロフォード / ゾラ・ニール・ハーストン『彼らの目は神を見ていた』(1937)
  56. アントニーア・シメルダ / ウィラ・キャザー『私のアントニーア』(1918)
  57. Grendel / Grendel, John Gardner, 1971
  58. Gulley Jimson / The Horse's Mouth, Joyce Cary, 1944
  59. ビッグブラザー / ジョージ・オーウェル『1984』(1949)
  60. トム・リプリー / パトリシア・ハイスミス『リプリー』(1955)
  61. シーモア・グラース / J・D・サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』(1953)
  62. ディーン・モリアーティ / ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』(1957)
  63. シャーロット / E・B・ホワイト『シャーロットのおくりもの』(1952)
  64. T・S・ガープ / ジョン・アーヴィング『ガープの世界』(1978)
  65. ニック&ノラ・チャールズ / ダシール・ハメット『影なき男』(1934)
  66. ジェイムズ・ボンド / イアン・フレミング『カジノ・ロワイヤル』(1953)
  67. Mr. Bridge / Mrs. Bridge, Evan S. Connell, 1959
  68. ジェフリー・フィルマン / マルカム・ラウリー『活火山の下』(1947)
  69. ベンジー / ウィリアム・フォークナー『響きと怒り』(1929)
  70. チャールズ・キンボート / ウラジーミル・ナボコフ『青白い炎』(1962)
  71. マリー・キャサリン・ブラックウッド / シャーリィ・ジャクソン『ずっとお城で暮らしてる』(1962)
  72. チャールズ・ライダー / イヴリン・ウォー『ブライヅヘッド再び』(1945)
  73. クローディーヌ / コレット『学校のクローディーヌ』(1900)
  74. フロレンティーノ・アリザ / ガブリエル・ガルシア=マルケス『コレラ時代の愛』(1985)
  75. ジョージ・フォランスビー・バビット / シンクレア・ルイス『バビット』(1922)
  76. Christopher Tietjens / Parade's End, Ford Madox Ford, 1924-28
  77. フランキー・アダムス / カーソン・マッカラーズ『結婚式のメンバー』(1946)
  78. 涙の犬 / ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』(1995)
  79. ターザン / エドガー・ライス・バローズ『類人猿ターザン』(1914)
  80. ネイサン・ザッカーマン / フィリップ・ロス『男としての我が人生』(1979)
  81. アーサー・“ブー”・ラドレイ / ハーパー・リー『アラバマ物語』(1960)
  82. ヘンリー・チナスキー / チャールズ・ブコウスキー『ポスト・オフィス』(1971)
  83. ヨーゼフ・K / フランツ・カフカ『城』(1925)
  84. ユーリ・ジバコ / ボリス・パステルナーク『ドクトル・ジバコ』(1957)
  85. ハリー・ポッター / J・K・ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』(1998)
  86. ハナ / マイケル・オンダーチェ『イギリス人の患者』(1992)
  87. マーガレット・シュレーゲル / E・M・フォースター『ハワーズ・エンド』(1910)
  88. ジム・ディクソン / キングズリー・エイミス『ラッキー・ジム』(1954)
  89. モーリス・ベンドリクス / グレアム・グリーン『情事の終わり』(1951)
  90. レニー・スモール / ジョン・スタインベック『ハツカネズミと人間』(1937)
  91. Mr. Biswas / A House for Mr. Biswas, V. S. Naipaul, 1961
  92. オールデン・パイル / グレアム・グリーン『静かなアメリカ人』(1955)
  93. キンボール・“キム”・オハラ / ラドヤード・キプリング『キム』(1901)
  94. ニューランド・アーチャー / イーディス・ウォートン『エイジ・オブ・イノセンス』(1920)
  95. クライド・グリフィス / セオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』(1925)
  96. イーヨー / A・A・ミルン『くまのプーさん』(1926)
  97. クェンティン・コンプスン / ウィリアム・フォークナー『響きと怒り』(1929)
  98. チャーリー・マーロウ / ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』(1902)
  99. セリー / アリス・ウォーカー『カラー・パープル』(1982)
  100. オーギー・マーチ / ソール・ベロウ『オーギー・マーチの冒険』(1953)

唯一、『アラバマ物語』から3人選ばれている。次点は、『ロリータ』、『響きと怒り』、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、『闇の奥』、『くまのプーさん』、『ブライヅヘッド再び』の2人。まあ、こんなものなのかな。

>>雑記

2008.7.13 (Sun)

コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』(2007)

ザ・ロード(113x160)

★★★★
The Road / Cormac McCarthy
黒原敏行 訳 / 早川書房 / 2008.6 / ピュリッツァー賞
ISBN 978-4152089267 【Amazon

文明と秩序が崩壊したアメリカでは、寒冷化が進行して食糧が不足、人々は略奪や共食いで餓えをしのいでいた。そんななか、幼い少年が父親と旅をする。

一九九X年
世界は核の炎につつまれた!!

海は枯れ
地は裂け……
あらゆる生命体が絶滅したかにみえた……
だが…

人類は死滅してはいなかった!!!!

終末世界を舞台にしたロードノヴェル。上記は『北斗の拳』【Amazon】の冒頭だけど、そのまま本作に使っても違和感ないと思う。多くの生命が死滅した荒野。暴力が支配する弱肉強食の世界。生き延びるためには他人から資源──食料、水、ガソリン、弾薬──を奪わなければならない。この世界だったらモヒカン頭のならず者が闊歩していてもおかしくないし、また、「汚物は消毒だ〜っ!!」と叫びながら火炎放射してきてもおかしくない。きっとどこかに3メートルを超える巨漢も棲息しているだろう。これぞ世紀末救世主伝説的な悪夢っ! 人類は地球規模の崩壊の跡を否応なくサバイブしている。

……と、いくぶん妄想を込めて書いてみたけれど、実際はもっと神話的でシリアスだ。徹底して読点を廃した地の文と、少ない言葉を往復させる断章的な会話、そして名前のない登場人物たち。随所に旧約聖書のモチーフが散りばめられていて、それらが黙示録的なイメージを喚起している。この苦難にあって純粋さを失わない少年は、現実的な父の庇護に置かれながら、共に「火」を運び、「善き人」の影を追っていた。いくぶんの寓意を孕んだ旅路は、極限状態のリアルな感情をすくいつつ、確実に前へ進んでいく。個人的にはあまり聖書に詳しくないので、一部謎めいたところがあったけれど、ただそれも含めて静謐な佳作だったと思う。

どうしようもなかったんだ。
少年は返事をしなかった。
あの人はもうすぐ死ぬ。なにか分けてあげたらこっちも死ぬんだ。
わかってる。
だったらいつになったらまた口をきいてくれるんだ?
いま口をきいてる。
じゃあもういいんだな?
うん。
それならいい。
うん。 (p.46-7)

相変わらずこの著者は会話が上手い。敵も味方も決して長広舌は振るわず、ぽつりぽつりと呟く程度。しかし、それがゆえに言葉には詩情が宿っている。この著者は一貫して現代の神話を紡いでいるのだなと思った。文明の衣をはぎ取った、裸の世界に関心があると見える。

>>Author - コーマック・マッカーシー

2008.7.14 (Mon)

手塚治虫『手塚治虫SF傑作集 時間旅行者編』

手塚治虫SF傑作集―二階堂黎人が選ぶ! (時間旅行者編)(113x160)

★★★
二階堂黎人 編 / ちくま文庫 / 2002.8
ISBN 978-4480037572 【Amazon

アンソロジー。「三つのスリル」、「宇宙からのSOS」、「偉大なるゼオ」、「未来をのぞく3人」、「7日の恐怖」、「バックネットの青い影」、「タイムマシンのみごと」、「午后一時の怪談」、「出ていけッ!」、「処刑は3時におわった」、「化石人間」、「ふしぎなメルモ バレリーナの巻」、「ふしぎな少年 タイム・マシーンのおんぼろ事件」、「冒険放送局 西部劇の巻」、「鉄腕アトム ロボット流し」、「未来への小包」、「オクチンの大いなる怪盗」、「ブラック・ジャック 人生という名のSL」の18編。

時間旅行のみならず、時間停止や時間ループ、未来予知なども扱っている。総じて、ショートショートっぽいアイディア重視の短編に良作が多かった。

以下、各短編について。気に入った短編には末尾に☆をつけた(18編中5編につけた)。

「三つのスリル」(1968)

少年が別の時空の少年と出会い、乗り物を使ってタイムスリップする。

「宇宙からのSOS」(1962)

宇宙ロケットのエンジンがやられたのでSOSを送る。

「偉大なるゼオ」(1964)

登山者一行が洞穴で巨人を発見、東京に運ぶも彼はとつぜん道路を破壊する。

ありきたりなストーリーだったかな。当然、この巨人は悪い奴ではない。

「未来をのぞく3人」(1958)

探検から帰ってきた3人は未来が見えるようになっていた。そのうちの1人が陰謀団の首領になり、商売の邪魔ということで1人を排除する。残った1人が首領と対決するのだった。

特殊な能力で金儲けできる反面、場合によってはそれが苦痛を呼び起こすこともある。いくらでも膨らみそうなアイディアなのに、話はコンパクトにまとまっていて潔い。

「7日の恐怖」(1969)

ある朝少年が目覚めると、霧の中に部屋が浮いていた。時間が経つに連れて外は景観が整っていく。

スケールが大きくて面白かった。自然と超自然が混在するヴィジュアルが最高。宗教っていうのはSF/FTの領域で、とにかく世界観に魅力があるんだよな。だからホイホイ騙される。☆。

「バックネットの青い影」(1962)

プロ野球の2軍投手が、1軍投手から薬を強奪、事故に見せかけて殺害する。その薬は直後の自分の動きを幻視させる効果があった。

要するに幻視した像の真似をすれば、物事はうまくいくという理屈。未来予知の一種である。筋書きはわりと周到に出来ていて、<もう1人の自分>みたいな始末のつけかたに驚いた。この話は心理学で図式化できそう。☆。

「タイムマシンのみごと」(1967)

原始人のもとに未来から男がやってきた。男はこの場所を観光地にするという。

原始人の生活を後世の知識に基づいて捏造するのが笑える。そうそう、観光ってある意味ファンタジーだよね。みんなあるべき光景を期待してやってくる。見られる側はお客様の夢を壊してはいけない。

「午后一時の怪談」(1963)

世界中が特定の時間を繰り返すようになった。午后1時になるとその日の朝に戻ってしまう。

こういう特殊な時間操作を見ると無性にわくわくする。知的遊戯の一種というか。

応用編として秀逸なのが、『ジョジョ』【Amazon】の第4部に出てきた「バイツァ・ダスト」だ。詳細はリンク先を見てもらうとして、この設定は制約と能力が絶妙なバランスを保っていると思う。能力バトルの一つの到達点と言っていいだろう。

「出ていけッ!」(1972)

男の部屋に裸の男女がやってきた。しかし、彼らは実体のない未来の像であり、部屋のなかでしか見ることができない。そうこうしているうちに殺人の計画が持ち上がる。

星新一のショートショートみたいだった。裸の男女というエロスもさることながら、オチがブラックで面白い。☆。

「処刑は3時におわった」(1968)

悪逆非道のナチス将校が銃殺隊の前に立たされる。彼は薬を飲んで時間の流れを遅くするが……。

このシチュエーション、『ジョジョ』でいえば、ゴールド・エクスペリエンスに殴られたブチャラティみたいなものだろうか。結末は捻りが効いていてちょっとした驚きがある。☆。

「化石人間」(1952)

博士の乗った船が氷の中からマンモスを発掘。さらに、悪者が時間機を使ってローマ皇帝ネロを呼び出す。

子供向けでやや間延びしている。最終的にはマンモス×恐竜の一大スペクタルへ。

「ふしぎなメルモ バレリーナの巻」(1971)

メルモが大人になってバレエの発表会に出る。

手塚治虫の画風は幅広い。ちゃんと少女向けっぽい可愛い絵になっている。

「ふしぎな少年 タイム・マシーンのおんぼろ事件」(1962)

少年が事故で2次元の体になった。と同時に、彼は時を止める能力を獲得、止まった時間のなかでは3次元に戻る。

状態を使い分けてミッションを遂行するところはアクションゲームみたい。時間の操作と体の変化が攻略の鍵になっている。

「冒険放送局 西部劇の巻」(1960)

子供たちが開拓時代のアメリカにタイムスリップ、白人からインディアンを助ける。

テレビに出てくるインディアンは悪党だったけど、実際に接したらそうでもなかったという。なるほど、これが描かれた当時はまだ西部劇が現役だったんだな。

「鉄腕アトム ロボット流し」(1960)

アトムがタイムマシンで20世紀の日本へ。

安保闘争が出てくるところに時代を感じる。しかし、最後のコマは脈絡がないような……。

「未来への小包」(1963)

エッセイ。タイムカプセルと科学の発達について。

ある種のハードSFが面白いのは、自分たちが確認できない遠未来を、理屈っぽく予測しているからだろう。可能性は無限大だし、空想の楽しみがある。

「オクチンの大いなる怪盗」(1970)

不良学生が未来からきた男とつるむ。彼らは他人の未来を盗もうとしていた。

人間のケツには尻尾みたいな袋がついており、そこに未来が詰まっているという。「隣の芝生は青い」という教訓的な話だけど、しかし現実は金さえあれば比較的不幸は少ないだろう。

「ブラック・ジャック 人生という名のSL」(1978)

SLで1人旅をするブラック・ジャック。彼の前に旧知の人たちが現れる。

第1部の最終話ということで、ドクター・キリコや本間先生、ピノコといった人たちと印象深いやりとりをしている。こういう自分のルーツを確認する話は面白いね。☆。

2008.7.15 (Tue)

フレッド・M・ウィルコックス『禁断の惑星』(1956/米)

禁断の惑星(118x160)

★★★★
Forbidden Planet
ウォルター・ピジョン / アン・フランシス / レスリー・ニールセン / ウォーレン・スティーブンズ / ジャック・ケリー / リチャード・アンダーソン / アール・ホリマン / ジョージ・ウォレス / ロビー・ザ・ロボット
ワーナー・ホーム・ビデオ 【Amazon

西暦2200年。惑星に降り立ったクルーたちを迎えたのは、ロビーという名のロボットだった。この星は20年前に調査が行われたものの、博士を除いた全員が何者かに殺されたという。博士は現在、この星で娘と暮らしていた。クルーたちは地球との交信を試みるも、とつぜん謎の怪物に襲われる。

ロビー、可愛いよ、ロビー。おもちゃみたいな外観といい、ぎこちない動作といい、とにかくロビーが可愛い過ぎる。このロボットはR2D2(『スター・ウォーズ』【Amazon】)の元ネタらしいけれど、純粋な可愛さだったらロビーのほうに軍配が上がると思う。やはり喋るたびに頭の計器(?)をカタカタ言わせるのが良いね。そこには何かローテクの名残を感じてしまう。しかも、古びた外観とは裏腹に機能はめっちゃ高性能。10トンもの鉄板を楽々運ぶかと思えば、燃料から洋服や食物を精製している。これぞハイテクとローテクのコラボレーション! ロボット三原則も遵守するロビーは、SF好きのツボを押さえたパーフェクトなロボットである。

ストーリーは色々と突っ込みどころ(どれもアン・フランシスのミニスカ絡みだ)があるけれど、SFサスペンスとしてはなかなかのものだと思う。特撮や小道具などのヴィジュアルがふるっているし、恐怖を演出するカメラワークも効果をあげている。極めつけは怪物の正体で、これはまったく想像がつかなかった。さすがSF映画の古典だけあって、当時としては先進的なネタが用意されている。

2008.7.17 (Thu)

ロラン・ゴデ『スコルタの太陽』(2004)

スコルタの太陽(108x160)

★★★★
Le Soleil Scorta / Laurent Gaude
新島進 訳 / 河出書房新社 / 2008.6 / ゴンクール賞
ISBN 978-4309204932 【Amazon

モンテプッチョに帰ってきた罪人が、女の腹に種を残して死亡した。その子供は長じてから村に災厄をもたらすようになる。さらに、物語は孫の代へと続き、一族の業を炙り出すのだった。

5代にわたる壮大なスケールの本作は、イタリア版『百年の孤独』【Amazon】といったところだろうか。ただし、派手なマジックリアリズムは見あたらず、かろうじてラストにその片鱗が窺える程度。焦点になっているのはラテン系の乾いた情念であり、スコルタ一族を中心としたモンテプッチョの歴史である。この信心深い寒村では、ご多分に漏れず排他的な価値観が浸透していた。村の災厄として出発したスコルタ一族は、所々で<歪み>を見せながら大地に汗を流していく。この小説では、一部の登場人物が独自の観念に基づいた常識外れの行動をとるのだけど、しかしそこには厳しい風土に根ざした真実味が備わっている。

そう、厳しい風土というのがこの世界の魅力なのだ。岩だらけの荒野を太陽が見下ろす灼熱の乾いた風景には、度を越した狂気がよく似合う。こんな不毛の地に長く暮らしていたら、そりゃ神に対して畏敬の念も抱くだろう。そして、教会から物を盗んだ子供を、家族と村人が半殺しの目に遭わせる。そういう野蛮な仕打ちをしてもおかしくないだろう。恋愛・信仰・暴力と、彼らはあらゆる場面で苛烈さを発揮している。日本の読者としては、そんなラテン世界の過剰さに惹かれるものがある。