2008.8b / Pulp Literature

2008.8.11 (Mon)

過去25年のベストブック100

"Entertainment Weekly"による選出。1位が『ザ・ロード』というのは妥当なような意外なような。もっと凄い傑作たくさんありそうだけどねえ。同じ作者なら『すべての美しい馬』とか。2位が「ハリー・ポッター」なのはさもありなんかな。特に『炎のゴブレット』はシリーズ最高傑作として名高い。

10位に『ねじまき鳥クロニクル』が入っている。さすが世界のムラカミ。この調子でノーベル賞もゲットしてほしい。

  1. コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』(2006)【Amazon
  2. J・K・ローリング『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2000)【Amazon
  3. トニ・モリスン『ビラヴド』(1987)【Amazon
  4. Mary Karr "The Liars' Club"(1995)【Amazon
  5. Philip Roth "American Pastoral"(1997)【Amazon
  6. デニス・ルヘイン『ミスティック・リバー』(2001)【Amazon
  7. Art Spiegelman "Maus"(1986/1991)【Amazon
  8. Alice Munro "Selected Stories"(1996)【Amazon
  9. チャールズ・フレイジャー『コールド・マウンテン』(1997)【Amazon
  10. 村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』(1997)【Amazon
  11. ジョン・クラカワー『空へ』(1997)【Amazon
  12. Jose Saramago "Blindness"(1998)【Amazon
  13. アラン・ムーア、デイブ・ギブンズ『WATCHMEN』(1986-87)【Amazon
  14. ジョイス・キャロル・オーツ『ブラックウォーター』(1992)【Amazon
  15. デイヴ・エガーズ『驚くべき天才の胸もはりさけんばかりの奮闘記』(2000)【Amazon
  16. マーガレット・アトウッド『侍女の物語』(1986)【Amazon
  17. ガブリエル・ガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』(1988)【Amazon
  18. ジョン・アップダイク『さようならウサギ』(1990)【Amazon
  19. Zadie Smith "On Beauty"(2005)【Amazon
  20. ヘレン・フィールディング『ブリジット・ジョーンズの日記』(1998)【Amazon
  21. スティーヴン・キング『小説作法』(2000)【Amazon
  22. Junot Diaz "The Brief Wondrous Life of Oscar Wao"(2007)【Amazon
  23. Pat Barker "The Ghost Road"(1996)【Amazon
  24. Larry McMurtry "Lonesome Dove"(1985)【Amazon
  25. エイミ・タン『ジョイ・ラック・クラブ』(1989)【Amazon
  26. ウィリアム・ギブソン『ニューロマンサー』(1984)【Amazon
  27. A・S・バイアット『抱擁』(1990)【Amazon
  28. David Sedaris "Naked"(1997)【Amazon
  29. アン・パチェット『ベル・カント』(2001)【Amazon
  30. Kate Atkinson "Case Histories"(2004)【Amazon
  31. ティム・オブライエン『本当の戦争の話をしよう』(1990)【Amazon
  32. Taylor Branch "Parting the Waters"(1988)【Amazon
  33. Joan Didion "The Year of Magical Thinking"(2005)【Amazon
  34. アリス・シーボルド『ラブリー・ボーン』(2002)【Amazon
  35. Alan Hollinghurst "The Line of Beauty"(2004)【Amazon
  36. フランク・マコート『アンジェラの灰』(1996)【Amazon
  37. マルジャン・サトラピ『ペルセポリスI イランの少女マルジ』(2003)【Amazon
  38. ローリー・ムーア『アメリカの鳥たち』(1998)【Amazon
  39. ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』(2000)【Amazon
  40. フィリップ・プルマン「ライラの冒険シリーズ」(1995-2000)【Amazon
  41. サンドラ・シスネロス『マンゴー通り、ときどきさよなら』(1984)【Amazon
  42. エルモア・レナード『ラブラバ』(1983)【Amazon
  43. ポール・モネット『ボロウドタイム』(1988)【Amazon
  44. Melissa Fay Greene "Praying for Sheetrock"(1991)【Amazon
  45. イサベル・アジェンデ『エバ・ルーナ』(1988)【Amazon
  46. ニール・ゲイマン『サンドマン』(1988-1996)【Amazon
  47. E・L・ドクトロウ『紐育万国博覧会』(1985)【Amazon
  48. バーバラ・キングソルヴァー『ポイズンウッド・バイブル』(1998)【Amazon
  49. リチャード・プライス『クロッカーズ』(1992)【Amazon
  50. ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』(2001)【Amazon
  51. ジャネット・マルカム『ジャーナリストと殺人者』(1990)【Amazon
  52. Terry McMillan "Waiting to Exhale"(1992)
  53. マイケル・シェイボン『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』(2000)【Amazon
  54. クリス・ウェア『JIMMY CORRIGAN日本語版VOL.1』(2000)【Amazon
  55. Jeannette Walls "The Glass Castle"(2006)【Amazon
  56. ジョン・ル・カレ『ナイト・マネジャー』(1993)【Amazon
  57. トム・ウルフ『虚栄の篝火』(1987)【Amazon
  58. TC Boyle "Drop City"(2003)【Amazon
  59. エドウィージ・ダンティカ『クリック? クラック!』(1995)【Amazon
  60. バーバラ・エーレンライク『ニッケル・アンド・ダイムド』(2001)【Amazon
  61. Martin Amis "Money"(1985)【Amazon
  62. ピーター・ギュラルニック『エルヴィス登場!!』(1994)【Amazon
  63. ジョージ・ソウンダース『パストラリア』(2000)【Amazon
  64. ドン・デリーロ『アンダーワールド』(1997)【Amazon
  65. ロイス・ローリー『ザ・ギバー』(1993)【Amazon
  66. David Foster Wallace "A Supposedly Fun Thing I’ll Never Do Again"(1997)【Amazon
  67. カーレド・ホッセイニ『君のためなら千回でも』(2003)【Amazon
  68. Alison Bechdel "Fun Home"(2006)【Amazon
  69. ドナ・タート『シークレット・ヒストリー』(1992)【Amazon
  70. David Mitchell "Cloud Atlas"(2004)【Amazon
  71. Ann Fadiman "The Spirit Catches You and You Fall Down"(1997)【Amazon
  72. Mark Haddon "The Curious Incident of the Dog in the Night-Time"(2003)【Amazon
  73. ジョン・アーヴィング『オウエンのために祈りを』(1989)【Amazon
  74. H.G. Bissinger "Friday Night Lights"(1990)【Amazon
  75. レイモンド・カーヴァー『大聖堂』(1983)【Amazon
  76. ルース・レンデル 『心地よい眺め』(1998)【Amazon
  77. カズオ・イシグロ『日の名残り』(1989)【Amazon
  78. Elizabeth Gilbert "Eat, Pray, Love"(2006)【Amazon
  79. Malcolm Gladwell "The Tipping Point"(2000)【Amazon
  80. ジェイ・マキナニー『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』(1984)【Amazon
  81. スーザン・ファルーディ『バックラッシュ』(1991)【Amazon
  82. イアン・マキューアン『贖罪』(2002)【Amazon
  83. キャロル・シールズ『ストーン・ダイアリー』(1994)【Amazon
  84. ルイス・サッカー『穴』(1998)【Amazon
  85. Marilynne Robinson "Gilead"(2004)【Amazon
  86. ランディ・シルツ『そしてエイズは蔓延した』(1987)【Amazon
  87. スコット・スミス『ルインズ』【Amazon
  88. ニック・ホーンビィ『ハイ・フィデリティ』(1995)【Amazon
  89. Annie Proulx "Close Range"(1999)【Amazon
  90. Ruth Reichl "Comfort Me With Apples"(2001)【Amazon
  91. Adrian Nicole LeBlanc "Random Family"(2003)【Amazon
  92. スコット・トゥロー『推定無罪』(1987)【Amazon
  93. ジェーン・スマイリー『大農場』(1991)【Amazon
  94. エリック・シュローサー『ファストフードが世界を食いつくす』(2001)【Amazon
  95. Allegra Goodman "Kaaterskill Falls"(1998)【Amazon
  96. ダン・ブラウン『ダヴィンチ・コード』(2003)【Amazon
  97. Denis Johnson "Jesus’ Son"(1992)【Amazon
  98. Connie Bruck "The Predators' Ball"(1988)【Amazon
  99. アリス・ホフマン『オーウェンズ家の魔女姉妹』(1995)【Amazon
  100. Jon Stewart/Daily Show "America (the Book)"(2004)【Amazon

スティーヴ・エリクソン、リチャード・パワーズ、スティーヴン・ミルハウザーが入っていない。この3人は欧米では流行ってないのだろうか。ひょっとして日本限定の人気?

>>雑記

2008.8.12 (Tue)

高砂浦五郎『親方はつらいよ』(2008)

親方はつらいよ(100x160)

★★★
文春新書 / 2008.7
ISBN 978-4166606436 【Amazon

高砂親方(元大関・朝潮)が朝青龍騒動を振り返りつつ、親方の心得を説く。特別寄稿として朝青龍の反省文も収録。

どうやら親方も世代交代が進んでいて、高砂はかなり現代的な部類に入るようだ。大鵬が自著でウエイトトレーニングを否定していたのに対し、高砂は専用室まで作って積極的に取り入れている。また、先代の佐渡ヶ嶽(元横綱・琴櫻)が「土俵での怪我は稽古で治せ」をモットーにしていたのに対し、高砂はそれを否定的に捉えている。いずれも伝統に囚われない開明的な態度だけど、しかしまあ、こういうのって相撲に科学が取り入れられた結果だから、ただの世代差なのだろう。今はどの部屋も近代的なはずだし、別に高砂の資質がどうのってわけでもなさそう。

でも、弟子は殴らないとか、生活には干渉しないとか、横綱を「品格」に押し込めるのはよくないとか、相当異端な考えではなかろうか。無理偏に拳骨と書いて「兄弟子」と読ませる世界なのに、「師匠の父権を振りかざさない」なんて革命的にもほどがある。現役時代は「大ちゃん」として親しまれ、親方になってからは絶妙なボケ(例の「肌がツルツル」や「ダブルアーチの虹」など)で周囲を和ませる。こういう懐の深さが反映してそうな気がする。やはり人間は管理よりも放任のほうがよく育つもんね。これは一般の家庭を見ても明らか。

それにしても、朝青龍騒動はよく分からん騒ぎだった。巡業さぼってサッカーしたくらいで2場所出場停止とは、どう考えても厳しすぎである。それだったら本場所を休場してサーフィンに勤しんだ北の富士とか、ハワイから拳銃を持ち帰って川に捨てた大鵬とか、なぜ彼らはお咎めなしだったのだろう? 一説によると、この騒動にはモンゴル巡業の利権問題が絡んでおり、巡業部長の大島(元大関・旭國)が遺恨を晴らす形になったという。当然、その背後には弟子の旭鷲山が控えているわけで……ああ、陰謀論の深みにずぶずぶと……。

2008.8.14 (Thu)

上村一夫『菊坂ホテル』(1983-4)

菊坂ホテル(112x160)

★★★★
朝日新聞出版 / 2008.5
ISBN 978-4022140029 【Amazon

大正8年(1919年)の菊坂ホテルには、竹久夢二と谷崎潤一郎が滞在していた。ほかにも佐藤春夫、菊池寛、伊藤晴雨などが顔を出し、めいめい情念のドラマを盛り上げる。

いかにも「大正浪漫」って感じの漫画だった。夢二とお葉(モデル兼愛人)を軸としながら、芸術家たちの業を垣間見せていく。恋愛体質(笑)の夢二は天晴れなほど自分本位で、余所に愛人がいるにもかかわらず、別の愛人としてお葉を求めている。しかも、お葉が他の男といちゃつくや、血相を変えて怒り出すから始末に負えない。「二股かけてるてめーはどうなんだよ」と突っ込みたくなる。やはり今も昔も男は多情であり、一夫一婦制はその本能にそぐわないのだろう。一般的な法則として、男の価値が歳を食うごとに上がっていくのに対し、女の価値は20代をピークに下がっていく(だからみんなアンチエイジングに必死)。その不均衡が男女関係をますます複雑なものにしている。

後半は谷崎が主人公なのだけど、これがあまりに格好良すぎて心を奪われた。きりっとした太眉に精悍な面差し、いなせな和服に身を包み、やることなすこと全てが粋。彼は繊細さと剛胆さを兼ね備えた男前であり、芸術家の集団にあって、まるでスナフキンのような超俗的ポジションにいる。これがあまりにセクシーで、俄にファンになってしまった。谷崎は未読本がたくさんあるので、そのうち落ち穂拾いをしようと思う。

2008.8.18 (Mon)

ドリス・レッシング『シカスタ』(1979)

シカスタ(110x160)

★★★
Shikasta / Dolis Lessing
大社淑子 訳 / 水声社 / 2007.12
ISBN 978-4891766566 【Amazon

カノープス人の介入によって望ましい発達をしていたそのコロニーは、いつしか崩壊の一途を辿って「シカスタ」と呼ばれるようになった。シカスタでは人類が争いごとに狂奔している。惑星のエネルギーを矯正すべく、ジョホーアがシカスタに降臨する。

サンリオSF文庫からの復刊。宗教、イデオロギー、人種差別、大量消費社会といった人類の諸問題を、SFの器で丸ごと呑み込んでいる。この小説の大きな特徴は箱庭的に地球を眺めているところで、外側からの視座を獲得するためにSFを導入している。構成も特徴的だ。全編は報告書を中心とした雑多な文書で成り立っており、記事にはSFらしい特殊な用語が散りばめられている。なので宇宙人(カノープス人)視点の前半はかなりとっつきづらい。読みやすくなるのは、地球人(シカスタ人)の日記が主体となる後半以降になる。

文明批評は特に目新しい視点はなく、内容は素朴で凡庸である。ただ、この小説の魅力は世界観の構築、すなわち、人類の営みを壮大な背景に跡づけたところにあると思う。カノープスとシカスタは、神と人間みたいな一方的な権力関係にあった。と同時に、シカスタが発展することでカノープスも利益を受ける、そういった互恵関係にもある。シカスタの人類史は人類が認識しているよりも遙かに古く、人々の営みは今以上に好ましかった。ところが、そこへカノープスと敵対する勢力が現れ、彼らの悪意が人類を汚染していく……。この辺の背景は情報量が厖大で、全てを説明するのは骨が折れるのだけど、とにかく世界観ががっちり固まっていて、そのなかに現実(我々の世界)を収めているところが刺激的だったりする。