2008.11c / Pulp Literature

2008.11.27 (Thu)

A・S・バイアット『抱擁』(1990)

抱擁(112x160)

★★★
Possession: A Romance / A.S. Byatt
栗原行雄 訳 / 新潮文庫 / 2002.12 / ブッカー賞
ISBN 978-4102241110 【Amazon
ISBN 978-4102241127 【Amazon

ヴィクトリア朝の桂冠詩人アッシュが、同時代の詩人クリスタベルに恋文を送っていた。研究者のローランドとモードが、遠い過去の真実を探求しつつ、互いに恋心を芽生えさせる。

「文学批評家というのは、もともと探偵の素質があるのね」とモードは言った。「あなた、ご存じかしら、古典的な推理小説は古典的な姦通小説から起こったのだという説があるのを──誰もが、その父親は誰なのか、何から始まったのか、どんな秘密があるのか、と知りたがるわけね」

訳者あとがきによると、アッシュのモデルはロバート・ブラウニング、クリスタベルのモデルは、クリスティーナ・ロセッティー、エミリー・ディキンスン、エリザベス・バレットだという。本書は詩作や書簡を通して2人の“大作家”を捏造する手並みは凄いのだけど、謎解きの焦点が普通のロマンスなので、事態の推移にあまり興味が持てなかった。確かに時代を再現する手法は異様に凝っているし、手紙を含めた作中作も格調高い雰囲気を漂わせている。見せ場の作り方も巧妙で、それまで平面(書簡)で映していたロマンスを、立体(散文)に切り替えるところなんかは凄い仕掛けだと思う。けれども、文献調査がメインのわりには、たとえば『薔薇の名前』【Amazon】みたいな知的スリルに乏しく、どこまで剥いても人間関係の謎なのが物足りない。美しくせつない禁断の恋ねえ……。うーむ。

まあ、禁断の恋は確かに美しかったから良いとして、いまいち白けたのが現代を舞台にした“外側”のロマンスだ。研究者のモードはその美貌ゆえに同性のフェミニストたちから疎んじられ、さらに男性との肉体関係に不安を感じている。彼女はお金持ちの上流階級に所属し、研究も広く認められていた。そんな才色兼備のセレブが、下流の冴えない文化系男子と結ばれる。言ってみれば性別を逆転させた“シンデレラストーリー”であり、こういうドリームは映画で観るくらいがちょうどいいと思う。登場人物もみなご都合主義で動いているしね。どうもロマンス小説は苦手だ。

>>Author - A・S・バイアット