2009.1b / Pulp Literature

2009.1.12 (Mon)

大沢在昌『屍蘭 新宿鮫III』(1993)

屍蘭―新宿鮫〈3〉(109x160)

★★★★
光文社文庫 / 1999.8
ISBN 978-4334728571 【Amazon

新宿署の刑事・鮫島が、顔見知りの死を振り出しに、女実業家が絡む連続殺人事件に迫っていく。実業家には曰く付きの過去があり、異様な人間関係が現在まで続いていた。

『毒猿 新宿鮫II』の続編。前回の派手なアクションとは打って変わって、人間の暗部をえぐったおぞましい内容だった。腐臭を放ちそうな女の執念と、『白夜行』【Amazon】もびっくりの歪んだ絆。女は胎児の売買で会社の資金を稼ぎ、邪魔者を始末して高い地位を築いている。そして、極めつけは長年にわたる従姉妹への仕打ち……。明らかに倫理のタガがぶっ壊れていて、その澱のような狂気に思わずぞっとしてしまう。

女の片腕として暗躍するナースが凄い。見た目は普通のおばちゃんだけど、実は非情な殺し屋で、必殺仕事人のごとく次々と仕事をしている。当然、罪悪感など微塵もなし。「このナースがすごい!」みたいなランキング本があったら、ぶっちぎりで1位を獲るくらいイカれている。まさに、「そのナース、凶暴につき」(『その男、凶暴につき』【Amazon】)といったところだ。

鮫島と女の直接対決が面白かった。もちろん、拳で語り合うわけではなく、ホテルのラウンジで紳士的に会見するだけ。しかし、それが人間力の勝負になっており、鮫島の洗練された“品格”が、ハイソな女実業家を圧倒している。この辺の妙味は、ブライアン・フリーマントルに通じるものがあるかもしれない。心理描写がスリリングで読ませる。

>>『無間人形 新宿鮫IV』

2009.1.17 (Sat)

チャールズ・ディケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』(1849-50)

デイヴィッド・コパフィールド〈1〉(112x160)

★★
David Copperfield / Charles Dickens
中野好夫 訳 / 新潮文庫 / 1989.3
ISBN 978-4102030103 【Amazon
ISBN 978-4102030110 【Amazon
ISBN 978-4102030127 【Amazon
ISBN 978-4102030134 【Amazon
ISBN 978-4002011004 【Amazon】(岩波文庫)

作家として身を立てたデイヴィッド・コパフィールドの半生。継父とその姉に虐待されながら育ったデイヴィッドは、母の死後に寄宿学校を辞めされられ、奴隷同然の待遇で丁稚奉公することに。色々あって職場を脱走し、大伯母を頼って旅に出る。

長かった……。序盤は淡々と話が進んで面白かったけれど、中盤以降は冗長でほとんど飛ばし読みだった。スティアフォースの裏切りとか、ミコーバー氏のお手柄とか、それなりに見所はあったんだけどねえ。都合よく人が死にすぎとはいえ、物語はわりと普通の成長もので、特筆すべきはキャラが立っていることくらい。刻苦勉励をベースに、労働・金銭・恋愛と、庶民目線の泥臭いドラマを展開している。代表作を一通り読んだ限りでは、ディケンズが優れた作家だとは思えないんだよね。率直にいって、日本の直木賞クラスより下ではないだろうか。ディケンズは19世紀の作家だから価値があるのであって、いまさら読むのは時間の無駄のような気がする。

ユライア・ヒープとウィルキンズ・ミコーバーは、ドストエフスキーの小説に出てきそうなくらい暑苦しい。どちらもおそろしく饒舌で、金に絡んだ暗黒面をさらけ出している。今日においてディケンズは、偉大な作家に霊感を与えたという意味で貴重かもしれない。