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2009.6.24 (Wed)
◆『シャーロック・ホームズの冒険 完全版 Vol.1』(1984/英)

★★★★
The Adventure of Sherlock Holmes
ジェレミー・ブレット / デビッド・バーク / ゲイル・ハニカット / テニエル・エバンズ
ハピネット・ピクチャーズ
単品 【Amazon】 / BOX(24枚組) 【Amazon】
「ボヘミアの醜聞」、「踊る人形」の2編。
NHKで放送していたドラマの完全版(日本語吹き替えも収録)。これはすごかった。あの端正な小説世界を忠実に再現していて、風格ある映像にぐぐっと引き込まれる。ホームズ役のジェレミー・ブレットは大はまりだし、馬車が闊歩するロンドンや緑に覆われた郊外など、異国情緒あふれる風景も素晴らしい。紅茶を飲みながらのんびり浸っていたい世界観だ。
第1話「ボヘミアの醜聞」"A Scandal In Bohemia"
ボヘミア国王がお忍びでホームズの部屋を訪問。結婚を間近に控えた王は、昔の恋人であるアイリーン・アドラーの嫉妬により、当時の写真をネタに結婚の妨害を受けようとしていた。ホームズはアドラーに近づき、無事、写真の在処を突き止めるが……。
ジェレミー・ブレットの超絶演技がすごかった。紳士にして変人、依頼人には慇懃無礼という偏屈なホームズ像を完璧に演じている。躁病を思わせる細かい所作がいちいちはまってるんだな。国王が握手のために差し出した手を、きっぱり無視してみせるところなんか最高だわ。ホームズさんは1話目から飛ばしている。
この回は変装もすごかった。特殊メイクもさることながら、下層階級の仕草に説得力があって、とても同じ人間が演じているとは思えない。目の演技なんかかなり鬼気迫ってるし。これなら騙されても無理はないなと感心した。
第2話「踊る人形」"The Dancing Men"
依頼人の邸宅に、踊る人形を並べた奇妙な絵が書き付けられたという。以後もその絵は依頼人周辺を脅かすのだった。ホームズが事件を調査する。
映像版の利点は、話の途中で容易に回想を挟み込めるところだ。依頼人の説明をドラマで再現することで、とかく単調になりがちな絵にメリハリをつけている。
踊る人形が可愛かった。夢のなかで少しばかり踊りを披露している。
>>Vol.2へ
2009.6.27 (Sat)
◆『シャーロック・ホームズの冒険 完全版 Vol.2』(1984/英)

★★★★
The Adventure of Sherlock Holmes
ジェレミー・ブレット / デビッド・バーク / デビッド・グリム / バーバラ・ウイルシャー
ハピネット・ピクチャーズ
単品 【Amazon】 / BOX(24枚組) 【Amazon】
「海軍条約事件」、「美しき自転車乗り」の2編。
Vol.1の続き。このドラマの主な依頼人は上流階級なので、何かと華やかな邸宅を舞台にすることが多い。けれども、調査の過程でたまに下層階級の生活を映すことがあって、そのギャップが鮮烈だったりする。同じ地平上に存在する光と影。当時が階級社会だったことをさりげなく示している。
第3話「海軍条約事件」"The Naval Treaty"
外務省の機密文書が盗まれた。ホームズが捜索する。
西洋は「罪の文化」で日本は「恥の文化」とか絶対ウソだよなあ。だってこの依頼人、「恥」の意識に苛まれて病気になってるし……。
機密文書の盗難に関しては、もっと巧妙なトリックがあって然るべきだと思う。謎は魅力的なのに、真相が思いのほかしょぼいんだよね。これには拍子抜けだった。
第4話「美しき自転車乗り」"The Solitary Cyclist"
金持ちの家でピアノの家庭教師をしている女。邸宅から自転車で帰る彼女を、不審な男が自転車でつけてくるという。ホームズが調査する。
男の尾行が露骨すぎて笑ってしまった。見通しの良い田舎の一本道なのに、女との距離は10メートルくらいしかない。絵に描いたような不審者が、無言で女を追走する格好になっている。しかも、女が逆に追いかけたら、その男、必死こいて逃げてるのだから可笑しい。他にやりようがあったのではと思ってしまう。
ワトスンの失敗を正面から咎めるホームズは容赦がない。彼にはもっとやさしさが必要だろう。ヒューマン・リレーションの基本文献『人を動かす』【Amazon】を薦めてやりたい。
ホームズのボクシングが見られる貴重な回。パブでならず者をやっつけている。この時代は、体の前で腕をぐるぐる回すスタイルが流行ってたみたい。相手は間合いが掴みづらさそうだった。
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2009.6.29 (Mon)
▽レイモンド・チャンドラー『さよなら、愛しい人』(1940)

★★★★
Farewell, My Lovely / Raymond Chandler
村上春樹 訳 / 早川書房 / 2009.4
ISBN 978-4152090232 【Amazon】
刑務所から出てきたばかりのムース・マロイが、ヴェルマという女を探しに酒場を訪れる。しかしその行方が分からないうえ、彼ははずみで人を殺して姿を消してしまった。現場に居合わせたフィリップ・マーロウが、マロイとヴェルマを捜索する。
女は僅かに前に身をかがめ、その微笑は一刻み生気を失った。そして何がどう変化したというのでもないのだが、彼女は出し抜けに美しい女であることをやめてしまった。百年前なら危険な女、二十年前なら向こう見ずな女、しかし今ではただのハリウッドの安物女優、そんな女になった。(p.352)
『さらば愛しき女よ』の新訳版。むかし読んだときは、ヴェルマのことを股のゆるいバカ女くらいにしか思ってなかった。今回もその印象は否めなかったけれど、ただ少しだけ見直した部分もある。それはマーロウの推測によって露わになる意外な人間性で、邦題が「さよなら、愛しい人」に改められていることが大きい。
今までは「さよなら」の相手が「女」ということで、マロイ(男)からヴェルマ(女)への愛情がクローズアップされていた。それはまさしく男の世界、「さらば愛しき女よ」の世界だった。ところが、今回「さよなら」の相手が「人」に改変されたことによって、呼びかけの対象が「男」である可能性も出てきた。まるで自動車免許のAT→MTのように、性別による限定が解除されることになった。男でも女でも構わない「さよなら、愛しい人」。ここでクローズアップされるのが、ヴェルマ(女)からグレイル(男)への愛情である。
そもそも、マロイにとってのヴェルマは、ギャッツビーにとってのデイジー(*1)みたいなもので、過去の象徴にすぎなかったのではないか。恨みをぶつける対象として、けじめをつけるために執着したのではないか。そう考えると、「さよなら、愛しい人」というタイトルは、マロイを主体にするには相当な違和感があって、むしろヴェルマの気持ちを表したと解釈するほうがしっくりくる。マロイ、ヴェルマ、グレイルの3人のなかで、このような別れの言葉を体現できたのは、率先して死を選んだ(=グレイルに気を遣った)ヴェルマだけのように思える。マロイは執着してる相手にあっけなく殺されてるし、グレイルは置いてけぼりを食わされた形だし、男性陣は何かを言えるほどの活躍をしていない。事件の焦点はヴェルマにあるのだから、彼女の内面に寄り添ったほうが物語的に正しいのではないか。何げに邦題の変更は深いと思う。
2009.6.30 (Tue)
▲ロベルト・ボラーニョ『通話』(1997)

★★★
Llamadas Telefonicas / Roberto Bolano
松本健二 訳 / 白水社 / 2009.6
ISBN 978-4560-09003-9 【Amazon】
短編集。「センシニ」、「アンリ・シモン・ルプランス」、「エンリケ・マルティン」、「文学の冒険」、「通話」、「芋虫」、「雪」、「ロシア話をもう一つ」、「ウィリアム・バーンズ」、「刑事たち」、「独房の同志」、「クララ」、「ジョアンナ・シルヴェストリ」、「アン・ムーアの人生」の14編。
ラテン世界の日陰者たちをすくい上げた、やや悲しげな短編集。全体は「通話」「刑事たち」「アン・ムーアの人生」の3部構成になっており、それぞれ違った階層に焦点を当てている。
著者はチリの作家。本邦初紹介という鳴り物入りで登場したわりには、あまり手応えを感じなかった。訳者あとがきには、「ウディ・アレンとタランティーノとボルヘスとロートレアモンを合わせたような奇才」とある。確かに、ボルヘスっぽい部分はあるかな。博識で国際派で、作家ネタを盛り込んでいるところとか。でも、他の3人についてはよく分からない。とりわけタランティーノはねえ……。どうなんだろうか。
「通話」と「刑事たち」に収められた10編はまあまあ面白かった。けれども、「アン・ムーアの人生」に収められた4編は飛ばし読みだった。実はラテン系って苦手なのかも。こういう本は、気力が充実してないと読むのがしんどい。
以下、各短編について。
通話
「センシニ」
駆け出し作家の語り手が、文学賞への応募をきっかけに、亡命作家センシニと文通するようになる。センシニは各地の文学賞に作品を送り、その賞金で生計を立てていた。
「アンリ・シモン・ルプランス」
同業者からミソっかす扱いされている作家。彼は第二次大戦で重要な役目を果たすも、状況はあまり変わらない。戦後も周囲から遠巻きにされている。
「エンリケ・マルティン」
三流詩人エンリケ・マルティンとの思い出。一時は同人誌が原因で疎遠になるも、ふたたび旧交を温めることになる。
「文学の冒険」
作家のBは、作中で揶揄した作家Aから作品を激賞される。Bはそのことを不審に思う。
「通話」
BはモトカノのXと寄りを戻したのち、再度別れることに。半年後、BはXに無言電話をかける。
刑事たち
「芋虫」
学校をさぼっている少年が、映画のロケ現場で女優からサインをもらう。その後、ストローハットを被った芋虫と会話する。
「雪」
スペインで知り合った男は、ロシアのアンダーグラウンドに身を置いていた。男はオリンピック候補の女と懇ろになる。
「ロシア話をもう一つ」
第二次大戦時のドイツ軍。セビーリャ生まれの新兵が、手違いで親衛隊の基地に送られる。基地はロシア軍に占領され……。
「ウィリアム・バーンズ」
ウィリアム・バーンズは2人の女と同棲中。そこへ人殺しがやってくる。
「刑事たち」
車で移動中の2人の刑事の会話。チリ国内の政治闘争とか。
アン・ムーアの人生
「独房の同志」
女との思い出。彼女は語り手と同じ時期に別の独房に入れられていた。
「クララ」
女との思い出。
「ジョアンナ・シルヴェストリ」
ポルノ女優の語り。
「アン・ムーアの人生」
アン・ムーアの波瀾万丈な人生。
>>エクス・リブリス