2009.8b / Pulp Literature

2009.8.16 (Sun)

ウィリアム・トレヴァー『アフター・レイン』(1996)

アフター・レイン(110x160)

★★★★★
After Rain / William Trevor
安藤啓子・他 訳 / 彩流社 / 2009.1
ISBN 978-4779114090 【Amazon

短編集。「ピアノ調律師の妻たち」、「ある友情」、「ティモシーの誕生日」、「子どもの遊び」、「小遣い稼ぎ」、「アフター・レイン」、「未亡人姉妹」、「ギルバートの母」、「馬鈴薯仲買人」、「失われた地」、「一日」、「ダミアンとの結婚」の12編。

「短編の名手」にふさわしい傑作短編集だった。人生のやるせない局面を熟練の筆致で捉えている。英国女流のような重厚さはないものの、人間への確かな洞察を洗練された技巧で表していて、これはこれで一つの頂点なんだろうと思う。英国女流が重たいボディブローだとしたら、トレヴァーは素早いコンビネーションブローといったところだ。落ち着いた構えをとりながら、要所要所で鋭いキレを見せている。

以下、各短編について。

「ピアノ調律師の妻たち」"The Piano Tuner's Wives"

妻を亡くしたピアノ調律師が再婚する。相手は、これまで独身を貫いてきた59歳。ピアノ調律師が若かった頃、前妻と結婚するときに見捨てた女だった。念願を叶えた女は、目の見えないピアノ調律師のナビゲーターになる。ところが……。

いやー、いきなりすごいのが来た。わりと無茶な設定にもかかわらず、作りもの臭くないところが素晴らしい。歯医者が奥歯の裏をチェックするように、思いもよらない心理の機微を照らし出している。女の屈折もさることながら、目先を変えたラストが衝撃的で、男の包容力にはただただ唖然とするのみ。酸いも甘いもかみ分けた大人の短編に仕上がっている。★★★★★。

「ある友情」"A Friendship"

夫と2人の息子を持つフランチェスカ。独身でよろしくやっているマージ。2人は少女時代からの親友だったが、ふとしたことから転機が訪れる。

これもハイレベルな短編だ。女らしく友人を辛辣に評しながらも、2人の友情はつつがなく続いている。まず性格の違う2人の関係が白眉だし、さらにそこから男を交えた意外な展開が……。『密会』の項でも書いたけれど、トレヴァーが描く女心には説得力があるね。さぞモテたに違いない。

ラストのキレが凄まじい。「人生には絶対的・固定的なものなどない」ということを容赦なく示している。読後は、心にぽっかり穴が開いたような虚しさをおぼえた。★★★★★。

「ティモシーの誕生日」"Timothy's Birthday"

60代の夫婦には、ティモシーという名の息子がいた。彼はよそでいかがわしい暮らしをしている。この日はティモシーの誕生日。毎年、夫婦の家で祝う習慣だったが、ティモシーは今回、仮病を使って参加を見送ることにした。夫婦の家には電話がないため、ティモシーは若い衆を伝言に走らせる。

室内での微妙なやり取りを主体にしているところはカーヴァーっぽい。でも、カーヴァーだったらもっと説明を省くだろう。どうもこの短編集、“作者の眼差し”という一段上のレベルでオチをつけるのが目立つような。どちらかというと、「ある友情」みたいに作中のレベルで締めるほうがスマートだと思う。★★★。

「子どもの遊び」"Child's Play"

両親が浮気して再婚した結果、ジェラルドとレベッカが兄妹になる。2人は、大人の世界を題材にしたごっこ遊びをするのだった。

このラストはドキっとする。前の項で“作者の眼差し”にケチをつけたけど、本作や「ピアノ調律師の妻たち」を読むと、嵌るときはきっちり嵌っていることが分かる。こういう誤読の余地のない説明は、怠惰な読者にとってはありがたいかも。★★★★。

「小遣い稼ぎ」"A Bit of Business"

法王が来ているため、街にはひと気がなかった。2人の若者が空き家に目をつけて泥棒する。2軒目に入ると、老人が留守番をしていた。

聖なる太陽が輝いている間に、こっそりと卑俗な行為が進むという。いろいろ対比させていくのが上手くて、気がつくと納得の終着点にたどり着いている。職人技で仕上げたような短編だった。★★★。

「アフター・レイン」"After Rain"

失恋した女が、小さいころ訪れた思い出のホテルに滞在する。

既視感があるなあと思ってたら、『聖母の贈り物』に収録されていた(邦題は「雨上がり」)。再読してみたらけっこう良かったよ。宗教的なガジェットを、雨上がりのすがすがしさに絡めている。こういうのってキリスト教文化の強みだ。★★★★。

「未亡人姉妹」"Widows"

キャサリンが目をさますと、隣りで寝ていた夫が息をひきとっていた。これで姉のアリシアとの2人暮らしになる。アリシアも7年前に夫を亡くしており、それを機に3人で同居していたのだった。葬儀から6週間後、近所で評判の悪い塗装工がやってくる。彼は請求書を持参していた。キャサリンの夫は生前、銀行から金を引き出し、代金を支払っていたはずだったが……。

夫は律儀な性格だったから、絶対に払っているとキャサリンは確信している。しかし、領収書がないから客観的には証明できない。一方の塗装工は、税務署を誤魔化すために日頃から現金決済にしている。この小説の優れているところは構成だろう。真実を宙吊り状態に置くことで、いかんともしがたい姉妹の齟齬を浮き彫りにしている。サスペンスと見せかけて実は心理小説というアクロバティックな技を堪能した。★★★★★。

「ギルバートの母」"Gilbert's Mother"

サウス・ロンドン地区で殺人事件。50歳のシングルマザー・ロザリーは、息子のギルバートを疑う。彼には行動障害の治療歴があり、しばしば不穏な振る舞いをしていた。

妄想的な疑心暗鬼を描きつつ、最後は母と子の権力関係に着地している。★★★。

「馬鈴薯仲買人」"The Potato Dealer"

妙齢女子のエリーが不義の子を孕む。彼女に堕胎の意思はない。恥になるのを恐れた伯父は、馬鈴薯仲買人のモーリビーに、エリーとの結婚話を持ちかける。持参金はたんまり。今なら家と土地がつく。それはあからまさな買収だった。生活に不安のあったモーリビーは了承し、2人は結婚する。

仮面夫婦として上手くいってたのに、エリーが内なる声に傾いて余計なことをしでかす。今のままではいけない。真実を話さなければならない。こういう罪の感覚ってよく分かるなあ。偽りに対する不安は、何もキリスト教の専売特許というわけではない。人間はみな「正しさ」に縛られている。たとえ身の破滅になると分かっていても、正しいと思ったらやらずにはいられない。これって人間の弱さだろう。強い奴は「正しさ」に流されない。

ところで、モーリビーはえらいよ。金のために結婚したというのに、妻を大事に扱っているんだから。口論するほど仲が良くないという作者の洞察にははっとするね。あと、10年も一緒に暮らしていれば愛情のひとつも芽生えそうだけど、この夫婦は1度もセックスしてないのだから驚く。★★★★。

「失われた地」"Lost Ground"

ミルトン少年が果樹園で見知らぬ女性と出会う。彼女は聖ローザを名乗り、少年にキスをして立ち去っていった。少年の心の中で聖ローザの存在が膨らんでいく。彼はカトリック/プロテスタントの枠を越え、町で説教をはじめるのだった。

アイルランドはおっかねーなー。はじめはキリスト教の“呪い”を風刺しているのかと思ってたら、いつの間にか別の問題に重心が移っていた。カトリックとプロテスタントは、忍法帖でいえば伊賀と甲賀みたいな関係で、お互い蛇蝎のごとく忌み嫌っている。歴史的に宗教が根付いているから、縄張り争いの中心がそれになるのも無理はない。でも、身内を殺すのは異常だよなあ。どこのアメリカ南部だよ。宗教はかくも人を狂わせるのだ。★★★★。

「一日」"A Day"

お金持ちの旦那を持つリュース夫人の一日。彼女は石女なのを申し訳なく思っていた。そのせいで夫の浮気を疑っている。

ぐるぐると不安が駆けめぐりながらも、一日の終わりにはちゃんと落ち着いている。そんな話。★★★。

「ダミアンとの結婚」"Marrying Damian"

詩人として奔放な生活を送っていたダミアンが、還暦を過ぎて故郷に帰ってきた。彼とは古いつきあいの隣人一家。そこの娘が、ダミアンとの結婚を決意する。

何か悪いことがあると、「これは神による罰だ」とか言う。20世紀後半にもなって、未だ「罪と罰」の世界観に縛られているのだから恐ろしい。宗教は罪作りだ。

若い娘のハートを掴んだダミアンは、日本でいえば石田純一みたいなものだろうか。あやかりたいものである。★★★。

>>Author - ウィリアム・トレヴァー

2009.8.17 (Mon)

関川夏央『新潮文庫 20世紀の100冊』(2009)

新潮文庫20世紀の100冊(99x160)

★★★
新潮新書 / 2009.4
ISBN 978-4106103094 【Amazon

新潮文庫のブックガイド。1901年から2000年まで、1年1冊で100冊を選出している。構成は、短めの紹介文と内容解説、さらに資料としてその年の出来事を付記している。

いかにも新書らしいハンディな内容。良くも悪くも薄いので、ブックガイドというよりはカタログ的な楽しみがある。本文よりも資料のほうが面白かった。

以下、100冊のリスト。

  1. 与謝野晶子『みだれ髪』【Amazon
  2. E・デ・アミーチス『クオーレ』【Amazon
  3. トーマス・マン『トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す』
  4. チェーホフ『桜の園・三人姉妹』【Amazon
  5. 夏目漱石『吾輩は猫である』【Amazon
  6. ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』
  7. 泉鏡花『婦系図』【Amazon
  8. 永井荷風『あめりか物語』【Amazon
  9. 森鴎外『ヰタ・セクスアリス』【Amazon
  10. 谷崎潤一郎『刺青・秘密』【Amazon
  11. 武者小路実篤『お目出たき人』【Amazon
  12. 石川啄木『一握の砂・悲しき玩具』【Amazon
  13. 斎藤茂吉『赤光』【Amazon
  14. 高村光太郎『高村光太郎詩集』【Amazon
  15. 徳田秋声『あらくれ』【Amazon
  16. フロイト『精神分析入門』【Amazon
  17. 志賀直哉『和解』【Amazon
  18. 佐藤春夫『田園の憂鬱』【Amazon
  19. サマセット・モーム『月と六ペンス』【Amazon
  20. 有島武郎『惜みなく愛は奪う』【Amazon
  21. 小川未明『小川未明童話集』【Amazon
  22. マンスフィールド『マンスフィールド短編集』【Amazon
  23. 井伏鱒二『山椒魚』【Amazon
  24. 宮沢賢治『注文の多い料理店』【Amazon
  25. 梶井基次郎『檸檬』【Amazon
  26. アーネスト・ヘミングウェイ『日はまた昇る』
  27. 芥川龍之介『河童・或阿呆の一生』【Amazon
  28. 林芙美子『放浪記』【Amazon
  29. 島崎藤村『夜明け前』【Amazon
  30. 三好達郎『三好達郎詩集』【Amazon
  31. アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『夜間飛行』
  32. ウィリアム・フォークナー『八月の光』
  33. 尾崎士郎『人生劇場 青春篇』【Amazon
  34. 中原中也『中原中也詩集』【Amazon
  35. 川端康成『雪国』
  36. マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』【Amazon
  37. 石坂洋次郎『若い人』【Amazon
  38. 火野葦兵『土と兵隊・麦と兵隊』【Amazon
  39. ジョン・スタインベック『怒りの葡萄』【Amazon
  40. 織田作之助『夫婦善哉』【Amazon
  41. 三木清『人生論ノート』【Amazon
  42. 小林秀雄『モオツァルト・無常という事』【Amazon
  43. 中島敦『李陵・山月記』【Amazon
  44. 太宰治『津軽』【Amazon
  45. 原民喜『夏の花・心願の国』【Amazon
  46. 坂口安吾『堕落論』【Amazon
  47. 竹山道雄『ビルマの竪琴』【Amazon
  48. 大岡昇平『俘虜記』【Amazon
  49. 獅子文六『てんやわんや』【Amazon
  50. ロレンス『完訳 チャタレイ夫人の恋人』【Amazon
  51. アルベール・カミュ『異邦人』
  52. 壺井栄『二十四の瞳』【Amazon
  53. 北杜夫『幽霊』【Amazon
  54. 山本周五郎『樅ノ木は残った』【Amazon
  55. 石原慎太郎『太陽の季節』【Amazon
  56. 深沢七郎『楢山節考』【Amazon
  57. 大江健三郎『死者の奢り・飼育』【Amazon
  58. 松本清張『点と線』【Amazon
  59. 安岡章太郎『海辺の光景』【Amazon
  60. 三浦哲郎『忍ぶ川』【Amazon
  61. J・D・サリンジャー『フラニーとゾーイー』【Amazon
  62. 安部公房『砂の女』
  63. 水上勉『飢餓海峡』【Amazon
  64. レイチェル・カーソン『沈黙の春』【Amazon
  65. 司馬遼太郎『国盗り物語』
  66. 遠藤周作『沈黙』【Amazon
  67. 野坂昭如『火垂るの墓』【Amazon
  68. 開高健『輝ける闇』【Amazon
  69. 新田次郎『孤高の人』【Amazon
  70. 三島由紀夫『春の雪』
  71. 星新一『未来いそっぷ』【Amazon
  72. 有吉佐和子『恍惚の人』【Amazon
  73. 池波正太郎『剣客商売』【Amazon
  74. 筒井康隆『おれに関する噂』【Amazon
  75. 壇一雄『火宅の人』【Amazon
  76. 五木寛之『戒厳令の夜』【Amazon
  77. 宮本輝『螢川・泥の河』【Amazon
  78. ジョン・アーヴィング『ガープの世界』
  79. 椎名誠『さらば国分寺書店のオババ』【Amazon
  80. 山崎豊子『二つの祖国』【Amazon
  81. 井上ひさし『吉里吉里人』【Amazon
  82. スティーヴン・キング『スタンド・バイ・ミー』【Amazon
  83. 吉村昭『破獄』【Amazon
  84. 渡辺淳一『愛のごとく』【Amazon
  85. 村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
  86. 沢木耕太郎『深夜特急1 香港・マカオ』【Amazon
  87. 藤沢周平『本所しぐれ町物語』【Amazon
  88. 山田詠美『ひざまずいて足をお舐め』【Amazon
  89. 井上靖『孔子』
  90. 高村薫『黄金を抱いて翔べ』
  91. 江國香織『きらきらひかる』【Amazon
  92. 宮部みゆき『火車』【Amazon
  93. 吉本ばなな『とかげ』【Amazon
  94. 宮城谷昌光『晏子』【Amazon
  95. 佐江衆一『黄落』【Amazon
  96. M・ミッチェル・ワールドロップ『複雑系』【Amazon
  97. 辻仁成『海峡の光』【Amazon
  98. 高沢皓司『宿命』【Amazon
  99. 帚木蓬生『安楽病棟』【Amazon
  100. ベルンハルト・シュリンク『朗読者』

2009.8.20 (Thu)

エルサ・モランテ『アンダルシアの肩かけ』(1963)

アンダルシアの肩かけ(109x160)

★★★★
Lo scialle andaluso / Elsa Morante
北代美和子 訳 / 河出書房新社 / 2009.7
ISBN 978-4309205229 【Amazon

短編集。「灯火を盗んだ男」、「眼鏡の男」、「祖母」、「天使の通り」、「秘密の遊び」、「同級生」、「アンドゥッロとエスポージト」、「いとこのヴェナンツィオ」、「意気地のない男」、「シチリア人の兵隊」、「ドンナ・アマーリア」、「アンダルシアの肩かけ」の12編。

登場人物の観念が幻想を生んでいるような感じ。童話っぽい雰囲気もちらほらする。

以下、各短編について。

「灯火を盗んだ男」(1935)"Il ladro dei lumi"

死者に捧げる灯火。その番をしている男が、家族を養うために夜な夜な油をちょろまかしていた。現場を見た少女が天罰を期待する。

背景になっているのはユダヤ教。灯火云々は、『シンドラーのリスト』【Amazon】でお馴染みだろうか。宗教的な雰囲気にうんざりしながらも、観念上で溢れる死者が印象的だった。★★★。

「眼鏡の男」(1937)"L'uomo dagli occhiali"

目が覚めた男は、なぜか町の人たちと曜日感覚がズレていた。男は困惑しつつも、目的の女学生に近づく。一方、女学生も妙なことを言うのだった。

へんてこな世界だなあ。現実と妄想の垣根が判然としない。隣同士の細胞が、細胞膜を破って一部くっついたような感じだ。訳者あとがきによると、性の目覚めを描いているらしい。ふーん。★★★★。

「祖母」(1937)"La nonna"

夫を亡くした女が、遺産として貸家を相続する。現地に行くと、老婆とその息子が住んでいた。息子はそれなりに愛想があるものの、老婆からは歓迎されない。老婆は息子を取られるのを恐れていた。

老婆の執念がおどろおどろしい。一時は融和に傾きながらも、結局は超常的な災厄をもたらしている。★★★★。

「天使の通り」(1937)"Via dell'Angelo"

孤児のアントニーアが天使通りの修道院に入れられる。そこで「紳士」の訪問を受ける。

これも性の目覚めを描いた短編。途中から話が飛躍しているけれど、幻想というほど異世界でもなく、願望が形をとったようなロマンスが進行している。夢とも現ともつかない奇妙な味わいだった。★★★。

「秘密の遊び」(1937)"Il gioco segreto"

荒れ果てた貴族の館に住む侯爵一家。その家では夫人が権力を握っていた。3人の子供たちは、現実逃避のために秘密のごっこ遊びをする。

負の感情が渦巻くどろどろした雰囲気がすごい。館を支配する夫人はどこか魔女を彷彿とさせていて、その薄暗い存在感は怪奇小説に通じるものがある。こんなところに住んでたら病気になりそうだ。★★★。

「同級生」(1938)"Il compagno"

語り手の同級生に飛び抜けて美しい少年がいた。彼は明晰で恵まれた知性を持ち、おまけに金持ちだったが……。

墜ちた偶像に対する軽蔑心。わずか4ページのなかで、この年代の残酷さと傲慢さを鋭くえぐっている。★★★★。

「アンドゥッロとエスポージト」(1940)"Andurro e Esposito"

「一日」、「洗礼」の2作。人生の黄昏における信仰心を題材にしている。

信仰心があると見える景色も違うらしい。まあ、心の平安を捉えたよくできた短編だと思う。でも、生理的にこの世界観はしんどいんだよね。人間は宗教を持たないと駄目なのよ! みたいな狂気を感じる。何とか実現党並のおぞましさだ。★★★。

「いとこのヴェナンツィオ」(1940)"Il cugino Venanzio"

いとこのヴェナンツィオは4人兄弟の末っ子。何をやっても駄目なみそっかすで、おまけに夢遊病だった。

夭逝してるのにぜんぜん暗くないのだから不思議。どこか民話的な趣があって、こういう変わった子供がいても良いよね、と思えてくる。女の子をクローズアップするラストもユーモラスだ。★★★★。

「意気地のない男」(1941)"Un uomo senza carattere"

周囲からからかい目的でちやほやされているオールドミス。彼女は自分がモテていると勘違いしていた。大学生の「わたし」が、本人に真実を教える。

人間のいやしさにスポットを当てている。晩年の太宰治を連想したのだけど、そもそも太宰ってこんな感じだったっけ? 語り手の卑屈な態度がたまらない。★★★★★。

「シチリア人の兵隊」(1945)"Il soldato siciliano"

女がシチリア人の兵隊に遭遇する。彼には悲しい過去があった。

この兵隊は出家した坊さんみたいなものだろう。時代が時代だから軍に身を投じるしかない。罪を背負いながら彷徨っている。★★★。

「ドンナ・アマーリア」(1950)"Donna Amalia"

50歳の貴婦人ドンナ・アマーリアについて。

世界に対して貪欲で、なおかつ自分のものさしで価値を判断する。確かにこういう女性は魅力的だ。童話っぽいやや誇張された色彩。★★★。

「アンダルシアの肩かけ」(1951)"Lo scialle andaluso"

バレエダンサーのジュディッタが、女手ひとつで双子の兄妹(アンドレーア&ラウラ)を育てる。はじめは甘えん坊だったアンドレーアだったが、長じてからは母を嫌うようになる。

平たくいえば反抗期なんだけど、それにしても好き嫌いの波が大きいなあ。母親が自分のものでなくなったと絶望するくだり、そして、それが勘違いだったことを知って喜ぶくだり。感動的な体験を経て物語はもうひとひねりし、典型的なイタリア人家庭に落ち着く。果たしてこれは幸せなんだろうか? 2人は鎖で繋がれたような関係になっていて、このままでは将来が危ういと思う。★★★★。