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2009.10.5 (Mon)
△アンジェラ・カーター『ワイズ・チルドレン』(1991)

★★★★★
Wise Children / Angela Carter
太田良子 訳 / ハヤカワepi文庫 / 2001.8
ISBN 978-4151200090 【Amazon】
ドーラとノーラは75歳の一卵性双生児。俳優の私生児として生まれ、ショウビジネスの世界で活躍してきた。姉のドーラが、波乱に満ちた一族の歴史を物語る。
喜劇とは、他人の身に起きた悲劇のことである。
これは楽しかった。壮大なサーガというよりは、にぎやかな語りのカーニバルといったところ。色気と滑稽味がブレンドされたとりとめのない語り口が面白いし、喜劇的な数々のエピソード群が面白いし、実在のタレントを織り込んだ時代背景が面白い。双子が双子を生む双子の出血大サービスみたいな状況(一族だけで5組も出てくる)で、演劇界の愉快な面々がそれぞれの役柄を演じていく。この小説そのものが、ショウビジネスを題材にしたショウみたいな作りになっていて、複雑な人間関係の渦からあれよあれよと大団円にまとめ上げている。素晴らしいのは、大部のわりにつまらない箇所が全然ないところだ。溢れ出るおしゃべりを楽しむような感じだから、どこまで読んでも同じように面白い。しかもそれでいて、ちゃんと一族にまつわるクライマックスを作っている。フェミニズムに目配せをしながらもそれに溺れず、神話的・魔術的な物語を強靱な体力で紡ぎ出す。そこらのエンターテインメント形なしの、純粋に面白い小説だった。
2009.10.7 (Wed)
◆ガイ・ハミルトン『ゴールドフィンガー』(1964/英)

★★
Goldfinger
ショーン・コネリー / ゲルト・フレーベ / オナー・ブラックマン / ハロルド・サカタ / シャーリー・イートン / バーナード・リー / デズモンド・ルーウィリン / ロイス・マクスウェル
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
通常版 【Amazon】 / アルティメット・エディション 【Amazon】
所有する金の価格を釣り上げるため、小型の核兵器を使ってアメリカの金塊を汚染しようとするゴールドフィンガー(ゲルト・フレーベ)。その下準備として、米軍基地一帯に毒ガスを散布するつもりだった。ジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)が計画を阻止する。
原作はまぎれもない傑作だったけれど、映画はいささか期待はずれだった。小説の迫力はフレミングの卓越した描写に負っているから、映像にするとしょぼくなるのは仕方のないところだろうか。カーチェイスや銃撃戦といった派手なアクションはそこそこ見栄えがする(画質・音質がべらぼうに良い)のに、ゴルフ賭博みたいな地味なアクションになると、見るからにやる気のない消化試合になってしまう。心理的な勝負は、映像では誤魔化しようがないのだ。私はゴルフ対決が一番の見所だと思っていたので、このあっさりした調子は残念だった。
ハロルド・サカタがゴールドフィンガーの執事を怪演している。普通に銃を使えば良いものをなぜか徒手空拳で戦っており、武器といったら重りのついた帽子のみ。無敵の格闘マシーンとしてボンドを苦しめている。特筆すべきは鎧のような肉体だろう。ボンドの打撃を食ってもびくともしない。顔面受けをしつつ余裕の笑みを浮かべている。あの打たれ強さは少年漫画のレベルだった。
終盤がすげーなー。ゴールドフィンガーに囚われてなす術のないボンドが、女をたらし込んで逆転するのだからずっこける。そんな都合の良い展開あるかよ?。しかも、相手の名前が「プッシー・ガロア」。男では感じないレズビアンのはずなのに、わりと簡単に攻略している。こういう色気むんむんなところがボンドらしいのか。映画は映画でまったく別の道を歩んでいる。
2009.10.10 (Sat)
◆古川卓巳『太陽の季節』(1956/日)

★★
南田洋子 / 長門裕之 / 三島耕 / 佐野浅夫 / 石原裕次郎 / 東谷暎子 / 清水将夫 / 坪内美詠子 / 岡田真澄 / 石原慎太郎 / 関弘子 / 紅沢葉子 / 八代康二
日活 【Amazon】
湘南のブルジョワ高校。拳闘部の竜哉(長門裕之)が、街でナンパした年上女・英子(南田洋子)と親しくなる。奔放な生活を臨む2人は「愛」の存在を否定するも、いつしか英子のほうがぞっこんに。竜哉はそんな彼女に残酷な仕打ちをする。
いわゆる「太陽族」の生態を活写した青春映画。高校生のくせにバーで飲んだくれたり、ナンパした女とクラブで踊ったり、水着ギャルとヨットで海に出たりしている。この世代にとって、戦争とは幼い頃の思い出にすぎないのだろう。今では舶来の民主主義が太陽のごとく輝き、金を持った親たちは悠々と平和をむさぼっている。抗うべき「父」のいない少年たちは、あり余る富と若さにまかせて快楽に溺れていた。酒に女に博打に喧嘩。その無軌道な生活は、肥大した自我の極限形という感じでグロテスクである。
しかし、心の奥底には大人になることへの恐怖があるようで、物語の終盤、一度は父になることを覚悟した竜哉が、土壇場で英子を裏切っている。妊娠させても責任を取らず、わずかなモラトリアムの先延ばしをしているという次第。最後まで自分の非を認めることはなく、中絶手術で死んだ英子に責任転嫁している。よくよく考えれば、いつまでもこんな生活を送れるはずもないのだから、妊娠はよい転機だったのではなかろうか(高校生とはいえ、経済的に問題ないわけだし)。大人になり損ねた竜哉は哀れというしかない。いや、一番哀れなのは死んだ英子なんだけど……。
それにしても、英子はいい女だなあ。竜哉に5000円で売られても、腐らずにしっかり食らいついている。こんな健気な姿を見たらたちまちホの字になっちゃうよ。恋愛っていうのは、相手がどれだけ自分を好いているか、その度合いが重要なんだし。やっぱり、何があっても離れないという確信が欲しいよね。男はそういう「情」に弱いのだ。妊娠にびびった竜哉は甲斐性なしのだめんずである。ち○ぽで障子を突き破ってる場合じゃないぞ。