2009.12a / Pulp Literature

2009.12.1 (Tue)

ガイ・ハミルトン『地中海殺人事件』(1982/英)

地中海殺人事件(113x160)

★★★★
Evil Under the Sun
ピーター・ユスティノフ / マギー・スミス / ジェーン・バーキン / ダイアナ・リグ / ロディ・マクドウォール / ジェームズ・メイソン / ニコラス・クレイ / シルヴィア・マイルズ / コリン・ブレイクリー / デニス・クイリー / エミリー・ホーン
UPJ/ジェネオン エンタテインメント 【Amazon

名探偵ポワロ(ピーター・ユスティノフ)が、ある女を調査するため地中海のリゾートホテルに宿泊する。翌日、調査対象である元女優(ダイアナ・リグ)が殺された。滞在客はみな被害者と因縁があるうえ、それぞれアリバイがある。

原作はアガサ・クリスティ『白昼の悪魔』。映画版は主要人物の造形に変更を加えており、ドラマとして違和感ない仕上がりになっている。

クリスティの登場人物は機能的なところがいい。変に人間を描こうとせず、あくまでもキャラとして割り切っている。そこには利害を表すための「感情」があり、伏線として回収されるための「行動」がある。物語の終盤、ポワロの推理を聞くためにおとなしく部屋に集まるところなんて、機能的存在の顕著な例だろう。彼らは見えざる手で羊のごとく誘導されているのである。個々の場面でいくら血の通ったやりとりをしても、全体的にはどこかハリボテみたいで胡散臭い。人間関係に特化したこの雰囲気は病みつきになる。

アリバイ崩しが巧妙だった。確かに決定的な部分は偶然の産物だし、映像でやるにはあまりスマートではない(水泳帽を被ったくらいで午砲が聞こえなくなるか?)けれど、ちょっとした綾から論理の糸が通っていて、これこそミステリの醍醐味だと思う。特に「高所恐怖症」の使い方が小気味いいね。あそこまで露骨に手掛かりがぶら下がっていたとは! と単純に驚いたのだった。

しかし、最大の見せ場はやはりポワロの海水浴だろう。満を持してビーチに出現したポワロは、樽のような体に合わせて、露出度の低い上品な水着を着用している。そして、準備万端な格好とは裏腹に、膝丈の水深でこっそりエア水泳している。『ナイル殺人事件』のときよりも格段にチャーミングになっていて微笑ましい。ユスティノフのポワロははまり役だと思う。

2009.12.5 (Sat)

アンジェラ・カーター『夜ごとのサーカス』(1984)

夜ごとのサーカス(110x160)

★★★
Night at the Circus / Angela Carter
加藤光也 訳 / 国書刊行会 / 2000.9
ISBN 978-4336035844 【Amazon

19世紀末のロンドン。「下町のヴィーナス」としてサーカスで人気のフェヴァーズは、背中に立派な羽を生やしていた。ファクトか? フィクションか? アメリカ人記者のウォルサーがインタビューを試みる。その後は一座ともども波瀾万丈の旅へ。

サーカスやフリークショー、売春宿といったアングラ世界を舞台に、超現実的な語りの魔術を展開している。いわゆる南米的なマジックリアリズムと、欧米的なフェアリーテイルの折衷といった感じで、フリークの身の上話に代表される法螺話的な調子が心地良い。ただ、語りの魅力で引っ張った『ワイズ・チルドレン』に比べると、本作はストーリーテリングが微妙だ。奇抜なエピソードで固めた序盤はともかく、事態を混迷させるシベリアの章が退屈で、終盤は語りの魔術を離れたドタバタ劇と化している。女流作家にありがちな竜頭蛇尾の小説だった。

>>文学の冒険

2009.12.6 (Sun)

デニス・ホッパー『イージー・ライダー』(1969/米)

イージー・ライダー(128x160)

★★★★
Easy Rider
ピーター・フォンダ / デニス・ホッパー / ジャック・ニコルソン / カレン・ブラック
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
DVD 【Amazon】 / Blu-ray 【Amazon

キャプテン・アメリカ(ピーター・フォンダ)とビリー(デニス・ホッパー)が麻薬取引で大金をゲット、ハーレーで当てのない旅に出る。途中、ヒッピーの村に立ち寄ったり、弁護士(ジャック・ニコルソン)とマリファナ決めて語り合ったり、旅の醍醐味を満喫する。しかし、長髪の彼らは南部で異端視されており、現地人から酷い目に遭わされるのだった。

60年代のアメリカを冷凍パックにしたような映画。ベトナム戦争や黒人差別といった政治性を排除しつつ、アメリカ南部の風景・習俗を映し出している。当時は(現在も?)まだ西部開拓時代の延長上にあったようで、自警団の風潮と、保守的・排他的なモラルが幅をきかせている。通りすがりの人間に「髪を切れ」と言ったり、寝ているところを襲撃して殴り殺したり、地元のレッドネックたちが強烈。「州境でバラしちまおう」というセリフが、ただの脅しじゃないところが恐ろしい。自由がどうこうというよりも、アメリカ南部のビョーキっぷりに驚いた。