2010.2a / Pulp Literature

2010.2.1 (Mon)

ジョエル・コーエン『ビッグ・リボウスキ』(1998/米)

ビッグ・リボウスキ(112x160)

★★★
The Big Lebowski
ジェフ・ブリッジズ / ジョン・グッドマン / ジュリアン・ムーア / スティーヴ・ブシェーミ / ピーター・ストーメア / デヴィッド・ハドルストン / フィリップ・シーモア・ホフマン / ジョン・タトゥーロ / ベン・ギャザラ
アスミック 【Amazon

ロサンゼルス。負け犬の中年デュード(ジェフ・ブリッジズ)は、友人のウォルター(ジョン・グッドマン)やドニー(スティーヴ・ブシェーミ)とボウリングに明け暮れていた。そんな彼が誘拐事件に巻き込まれる。

オフビートな犯罪コメディ。ヒッピーの延長上と思しきゆるい雰囲気(湾岸戦争が背景にある)のなか、癖のある人物たちが画面を賑わせている。だいぶ笑ったわりにはあまり面白いという印象がない。「お洒落系」らしい鼻につく演出がちらほらあって、今の感覚では恥ずかしい部分もあったりする。ただ、観ている間は妙に居心地が良かったので、映画としては理想的なあり方なのかもしれない。

上下紫色のジョン・タトゥーロにはまいった。「キモイ」とか「ヘンタイ」とかという言葉を見事に形象化している。ひとことで言えば、勘違いスペイン野郎だ。ボウリングの球を舐めるところなんかぞっとするし、佇まいからして変質者の風格が漂っている。

2010.2.4 (Thu)

ジョゼフ・コンラッド『コンラッド短篇集』(1897-)

コンラッド短篇集(112x160)

★★★★
Short Stories of Joseph Conrad / Joseph Conrad
井上義夫 訳 / ちくま文庫 / 2010.1
ISBN 978-4480426376 【Amazon

日本オリジナル編集の短編集。「文明の前哨地点」、「秘密の同居人」、「密告者」、「プリンス・ローマン」、「ある船の話」の5編。

岩波書店から同名・同価格の文庫本【Amazon】が出ている。筑摩お得意の版権買い取りかと思いきや、収録内容の違う別の本だった。

以下、各短編について。

「文明の前哨地点」(1897)"An Outpost of Progress"

アフリカ奥地にある交易所に、管理人として2人の白人が配置される。文明の庇護を失った彼らは、余所者の来訪を機に争うようになる。

彼らは完全に無意味で、無力な二人の個人でしかなかった。文明化された大勢の人間が高度な組織をつくっているから、それによって初めて生きられる存在でしかなかった。自分の生活、自分の人格のまさに本質をなすもの、有能さも大胆さも、周りの環境は安全なのだという信念の表現でしかない。(p.13)

『闇の奥』【Amazon】を彷彿とさせる文明/非文明もの。部下の黒人が平然と状況に対処しているのに対し、白人2人は正気を失ってとんでもない事態を引き起こしている。まさに文明と野蛮の転倒である。暗黒大陸アフリカは、西洋人には刺激が強すぎるみたいだ。★★★★。

「秘密の同居人」(1910)"The Secret Sharer"

シャム湾を航行中の船。会社から任命された若い船長は、乗組員のなかで疎外感をおぼえてた。あるとき、船長自ら見張りをするという気まぐれを起こす。船の外壁を見ると、ロープに余所者が引っ掛かっていた。船長は彼を引き揚げ、誰にも見られないよう船長室に連れて行く。

余所者は他の船でトラブルを起こした逃亡者で、孤独な船長は彼を自分の分身と錯覚、船長室で密かに保護することになる。道中、彼を捜索している余所の船長が訪問してきたり、乗組員の詮索を避けようとしてますます孤立したり、隠蔽をめぐってハラハラドキドキする。

この余所者は、ユングの言う「シャドウ」に相当するのかな。自由で誇り高い男ではあるけれど、自分は同じ境遇にはなりたくない、罪は背負いたくない、と。色々な思いを投影して最後に切り離している。★★★★。

「密告者」(1906)"The Informer"

語り手の友人は人材コレクターで、珍しい人たちの知遇を得ていた。ある日、その友人がアナーキストのX氏を派遣してくる。X氏は語り手に、革命運動で起きたある事件の話をするのだった。

計略を駆使して密告者を炙り出す。この密告者というのが大時代的なロマン主義者で手に負えないのだけど、それに輪をかけてひどいのが運動に参加したブルジョワ婦人だ。よくいるヒロイン気取りの自分大好き人間なのである。革命(あるいは人生)をひとつの舞台と見なしているんだなあ。政治闘争とは傍から見ればロマンチックなだけに、そういう輩を磁石のように引きつける。まるで「自分探し」の旅に出る若者みたいな痛さ。

ただ、ラストはそういう見方を揺るがす悪戯が……。いったいどこが冗談だったのだろう? ★★★★。

「プリンス・ローマン」(1911)"Prince Roman"

ポーランド国籍の男が、プリンス・ローマンについて語る。ローマンは貴族の身でありながらポーランド軍に投じ、侵略者のロシアと戦うのだった。

「貴公子」みたいな華々しさはないものの、おとぎ話のような数奇な人生であることには間違いない。ラストのセリフがいかす。★★★★。

「ある船の話」(1917)"The Tale"

男が女に物語る──船を率いる軍人が、霧の中に潜む怪しい船を臨検する。相手は中立国を装い、敵の潜水艦に物資を送っているかもしれない……。

相手はシロなのか、それともクロなのか? 次第に船長の疑心暗鬼が深まっていく。ミステリアスで興味をそそる話だった。「密告者」「プリンス・ローマン」同様、この短編でも他人に物語をするという大枠を使っている。文明人(笑)と笑いたくなる業の深さがたまらんね。紳士なんてのは、所詮上辺だけを取り繕っているにすぎない。★★★★★。

2010.2.6 (Sat)

ベルナルド・ベルトルッチ『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972/伊=仏)

ラストタンゴ・イン・パリ(113x160)

★★★
Ultimo tango a Parigi
マーロン・ブランド / マリア・シュナイダー / ジャン・ピエール・レオー / マッシモ・ジロッティ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン 【Amazon

パリ。中年男のポール(マーロン・ブランド)と若い娘のジャンヌ(マリア・シュナイダー)が、アパートの空き部屋で一緒になる。2人は肉体関係を結び、以降逢い引きを重ねるようになる。ポールはジャンヌに対し、お互いの名前・素性を伏せたまま会うことを要求する。ポールは妻を自殺で亡くしており、ジャンヌは恋人(ジャン・ピエール・レオー)と結婚間近だった。

芸術かポルノか? で物議を醸した映画のオリジナル無修正版。マリア・シュナイダーの全裸のほか、2人のアナル・セックスが見られる。

若い娘の体で再生を果たそうとするも、結局は駄目だったという話か。すなわち、吸血鬼映画の変形。日常から離れた隠れ家的空間で、お互いのプロフィールをほとんど明かさず、ただセックスのみに興じる。2人にとっては降って湧いた奇跡の歳月であり、都会の匿名性を維持したまま深い関係になるところは、ネット時代のコミュニケーションに通じるものがある。

マリア・シュナイダーは顔はイマイチだけど、おっぱいはなかなか良いものを持っている。典型的な「脱いだら凄いのよ」系。また、二十歳らしくお肌もピチピチしていた。

2010.2.8 (Mon)

逢坂剛『百舌の叫ぶ夜』(1986)

百舌の叫ぶ夜(112x160)

★★★
集英社文庫 / 1990.7
ISBN 978-4087496017 【Amazon

(1) 崖から転落した新谷は奇跡的に生還、記憶喪失者となって自分探しをし、ヤクザに狙われる。(2) 新宿で爆弾テロが発生、倉木警部の妻が巻き添えになって死亡した。そのとき、明星刑事は殺し屋・新谷を尾行している。公安警察内で何かが起こっていた。

オヤジ向けらしからぬトリッキーな警察小説。刑事警察と公安警察の対立を盛り込みつつ、“百舌”の正体や陰謀の構図を巡って二転三転する。構成的にかなり凝った話で、時系列を弄くるところは伊坂幸太郎のよう。また、それぞれの思惑が働いて事態は必要以上に入り組んでいる。不倫問題を絡ませる(黒幕との因果を作りすぎる)のはどうかと思いながらも、とりあえず『新宿鮫』よりは上等だった。

トリックはねえ……。単にごちゃごちゃと網をかけて複雑にしているだけなので、特に驚きはないかな。二転三転しても「だから何?」としか思えない。もうちょっと知的な仕掛けが欲しかった。

>>『幻の翼』【Amazon】へ