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2010.2.11 (Thu)
▲フリッツ・ライバー『跳躍者の時空』(1958-)

★★★
Space-Time for Springers and Other Stories / Friz Leiber
中村融 編 / 河出書房新社 / 2010.1
ISBN 978-4309622057 【Amazon】
日本オリジナル編集の短編集。「跳躍者の時空」、「猫の創造性」、「猫たちの揺りかご」、「キャット・ホテル」、「三倍ぶち猫」、「『ハムレット』の四人の亡霊」、「骨のダイスを転がそう」、「冬の蠅」、「王侯の死」、「春の祝祭」の10編。
以下、各短編について。
「跳躍者の時空」(1958)"Space-Time for Springers"
4人家族の一軒家。雄猫のガミッチは、他の猫とは隔絶した高い知能を持っていた。あまりに頭が良すぎるため、成長したら自分は人間になると思っている。
一周回っているというか、理屈っぽいわりにはピントがずれているところがチャーミングだ。ただ、滑稽さの裏には分かちがたい悲しみがあって、知恵さえなければ猫として幸せだった。成長には喪失が伴う。交感を通して己を認識し、感傷もなく淡々と乗り越えている。
化学反応で両者ともWin-Winみたいな図式が良い。だってあの子供、下手したらサイコパスになってたから……。★★★★。
「猫の創造性」(1961)"Kreativity for Kats"
飲み水の器をひっくり返すガミッチ。水は離れたところで溜まりをなしている。この奇妙な現象がずーっと続いていた。ガミッチはなぜそんなことをしているのか? また、どこで水分を補給しているのか?
これも意外や意外、「跳躍者の時空」に匹敵する衝撃がある。“日常の謎”からちょっぴりはみ出した驚異。★★★★。
「猫たちの揺りかご」(1974)"Cat's Cradle"
飼い主たちが円盤談義をする。夜中、ガミッチと近所の猫たちは異様な光景を目の当たりにするのだった。
まあ、よくある話かな。人間との関係に言及するところは、このジャンルの名作『猫たちの聖夜』を想起させる。★★★。
「キャット・ホテル」(1983)"The Cat Hotel"
<猫ちゃんおいで>が、具合の悪いサイコ(雌猫)をキャット・ホテルに連れて行く。ガミッチも密かに同行するのだった。
このガミッチシリーズは、ゆるいドラマの延長上にちょっとした事件があるのだけど、ドラマと事件はわりと似たようなペース配分になっている。メリハリをつけようという意欲がなく、せいぜい2つの境目でうねりが生じているくらい。どちらも醒めたトーンで書かれている。★★★。
「三倍ぶち猫」(1992)"Thrice the Brinded Cat"
「キャット・ホテル」を踏まえた精神劇。ハロルド・ピンターを彷彿とさせるアナザーワールドになっている。いかにも演劇畑の人が好みそうな話だった。★★★。
「『ハムレット』の四人の亡霊」(1965)"Four Ghosts in Hamlet"
劇団の内幕について色々。占いが流行ったり、配役で揉めたり、女の団員に惚れたり。
じっさい、ときどき思うのだが、英国民にそなわる洗練されたおだやかさと、辛抱強く耐えるというささやかだが本物の能力は、ウィリアム・シェイクスピアが自国民のひとりとして生まれた幸運にもっぱら負っているのではないだろうか。(p.141-2)
妙にとっつきづらくて飛ばし読みしてしまった。シェイクスピアが好きならはまるかな? ★★。
「骨のダイスを転がそう」(1967)"Gonna Roll the Bones"
賭博中毒の男がサイコロを使ったゲームをする。大物ギャンブラーとの戦いはエスカレートし……。
SF入った独特のヴィジョンが燃える。CGをごりごり使った映画みたい。★★★。
「冬の蠅」(1967)"The Winter Files"
夕食後のひととき。パパは幻影と話をし、ママはスケッチ、子供たちは宇宙旅行に興じる。
深層心理を扱った幻想小説。ヤク中のようにイマジネーションが広がっている。★★★。
「王侯の死」(1976)"The Death of Princes"
人間コンピュータのブルサールについて。彼はいつも所定の時間で計算を終えるが、時期によってその時間が変動する。
なるほど、SFとはオカルトの一分野なんだなあ。世界を解釈し直すところにロマンがある。★★★。
「春の祝祭」(1977)"A Rite of Spring"
国家機密のビルで研究をしている数学者。彼の前に謎の女が現れる。2人はナンバーズゲームをするのだった。
女への気配りが空回りし、ときどきヒートアップしてKYなことを言っている。けっこう身につまされる男子は多いんじゃないでしょうか。★★★。
>>奇想コレクション
2010.2.14 (Sun)
◆『名探偵ポワロ 完全版 Vol.2』(1989/英)

★★★★
Agatha Christie: Poirot
デビッド・スーシェ / ヒュー・フレイザー / フィリップ・ジャクソン / ポーリン・モラン / ジェフリー・ベイトマン / リチャード・ハワード
ハピネット・ピクチャーズ
単品 【Amazon】 / BOX(16枚組) 【Amazon】
「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」、「24羽の黒つぐみ」の2編。
Vol.1の続き。
第3話「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」"The Adventure of Johnnie Waverly"
ロンドン郊外に屋敷を構える男。彼の元に、息子の誘拐を予告した脅迫状が届いたという。犯行を防ぐべく、ポワロとヘイスティングスが現地に乗り込む。また、ジャップ警部も部下を率いてかけつけてきた。
やはりこのシリーズはレギュラーキャラクターたちの掛け合いが面白い。完璧なファイリング・システムを構築するミス・レモンと、それを褒め称えるポワロ。車キチガイのヘイスティングス(24時間レースに出るらしい)と、車があまり好きではないポワロ。運転するときのヘイスティングスは気合いが入っていて、革のハーフコートに派手なネクタイという何とも奇妙な出で立ちになっている。ハンドルを握るヘイスティングスと助手席に座るポワロ、田舎道を飛ばしながら陽気にデュエットしている(*1)のが微笑ましい。ポワロは原作よりも性格が明るくなってるんじゃなかろうか? そして、ご機嫌な2人がエンストによって不機嫌になるのも可笑しい。
イギリスの屋敷は秘密の地下通路があってわくわくする。本棚がドアみたいに動く仕掛けなんか我が家にも欲しいくらいだ。こりゃオール電化とか言ってる場合じゃないぞ。
あと、車もいいなあ。今で言えばクラシックカーになるけれども、馬車の面影を残したデザインは、“未来志向”の現代においてはかえって新鮮に映る。正直、最近の車には魅力がないんだよね。どれも流線型を基調にしていて、発想に大した差がない。ちょっと乗ったら中途半端に古びてしまう。これじゃあ「若者の車離れ」とやらも仕方がないと思う。
第4話「24羽の黒つぐみ」"Four and Twenty Blackbirds"
レストランでいつもと違うメニューを頼んだ老人が、階段から転落して死亡した。事件性を感じたポワロが調査に乗り出す。
ポワロが虫歯の治療を受けている。診察台のうえで口をあんぐり開けて、ステンレス製の器具で口内を固定されていた。当然セリフはなく、目を不安げに見開いて何かを訴えている。このシリーズのポワロは、グラナダ版のホームズとは違う分野で体を張っている。
ところで、捜査もたけなわというときにポワロがヘイスティングスに手作り料理を振る舞っていたけれど、これはいったい何の意味があったのか。事件を解決に導くための実験かと思ったら、どうも本筋とは関係なさそうだし。尺が余ったから入れただけ? ただの仲良しアピール? タイミングがタイミングだけにちょっと気になった。
>>Vol.3へ
2010.2.16 (Tue)
▲「新潮45」編集部編『その時、殺しの手が動く』(2003)

★★★
新潮文庫 / 2003.5
ISBN 4-10-123915-0 【Amazon】
「新潮45」に連載された犯罪ルポ。「日野不倫放火殺人事件」、「塩尻人気AV女優怪死事件」、「三島女子大生焼殺事件」、「宇都宮散弾銃主婦射殺事件」、「大分十五歳少年一家殺傷事件」、「札幌歯科医嫁惨殺事件」、「稚内冷凍庫夫絞殺事件」、「さいたま実娘拷問殺害事件」、「青梅姉妹バラバラ殺人事件」の9編
『殺ったのはおまえだ』【Amazon】の続き。
このシリーズを読むのは今回がはじめて。本書は事件の経緯や関係者の生い立ち、裁判の後日談などをざっとなぞっている。どれも気が滅入る話ばかりだけど、分量が少なくてあっさりしているせいか、それほど記憶には残らない。ぬるいと言えばぬるいし、お手軽と言えばお手軽である。
典型的な凶悪犯は生育環境に問題があるということを再確認した。カエルの子はカエルといった感じで、彼らはある種の階層をなしている。『マラボゥストーク』や『フィルス』で描かれている通り、悪は世代を越えて連鎖するのだ。子を持つ親(これから持つ予定の人も)は本書を読んで自戒すべきだろう。
以下、各事件について。
「日野不倫放火殺人事件」
NEC社員の女(独身・27歳)は、会社の先輩(妻子持ち・34歳)と不倫関係にあった。女は相手のアパートを放火、部屋にいた子供2人(6歳と1歳)が死亡する。
これは男がひでーなー。愛人の気を持たせるために妻との離婚をちらつかせ、あまつさえ2度も中絶させている。そのうえ、妻には「愛人と別れる」とか言ってたくせに、本心では別れる気が全然ない。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、事態は泥沼化している。
加害者もたいがいな精神構造だし、殺された子供たちは浮かばれないけれども、それにしたって男が裁かれないのは理不尽だ。結局、起爆剤になったのはこいつなのだから……。事件後、夫婦は元の鞘に戻り、新たに2人の子供を設けている。加害者家族からの示談金は占めて4205万円。法律ってのは完璧ではない。
「塩尻人気AV女優怪死事件」
会社員の男性と人気AV女優(共に24歳)が、炎上した乗用車のなかから死体で発見された。遺体にはそれぞれナイフによる刺し傷がある。他殺か? それとも心中か?
どう考えても他殺なんだけど、警察は無理心中で処理、犯人はまだ明らかになっていない(*1)。男性は怪しいサイドビジネスに手を染めており、金銭が不自然に動いている。
この事件は警察が乗り気でないところが興味深い。栃木リンチ殺人事件のように、犯人の身内に警官がいたりするのだろうか? 田舎はもみ消しし放題だから恐ろしい。
「三島女子大生焼殺事件」
トラック運転手(30歳)が、たまたま通りかかった19歳の女子大生を拉致。車のなかで強姦し、山に連れて行って生きたまま焼き殺す。
おいおい、何だこの鬼畜は。生身の女をダッチワイフみたいに焼却するなんてたまったもんじゃあない(強姦ももってのほかである)。犯人はシャブ中であり、案の定、生育環境もまともではなかった。我々の世界と“危険な階級”は地続きになっている。
「宇都宮散弾銃主婦射殺事件」
男(62歳)が隣家の主婦(60歳)を猟銃で射殺し、そのあと銃口を口にくわえて自殺した。両家は20年前から仲が悪かったという。
これは被害者が悪いケース。監視カメラで24時間モニタリングするとか異常すぎるだろう。性格も酷かったようだし、犯人には同情するしかない。
この章では他に2件の隣人殺害事件を扱っている。
「大分十五歳少年一家殺傷事件」
15歳の高校生が夜中に民家に侵入、寝ている6人家族をナイフで斬りつけ、3人を殺害・3人に重傷を負わせる。少年と一家は顔見知りで、日頃からトラブルがあった。
例によって少年の家庭環境は悪く、父親はロクデナシ、母親は不倫という悲劇のツーペアをなしている。10代で下着泥棒とは解せないけれど(普通はもっと上の年代がやるもんだろ?)、まあ、こんな家庭では奇行に走るのも無理はない。たぶんちょっと狂ってるんだと思う。未成年の犯罪には連座制が必要ではないか。
「札幌歯科医嫁惨殺事件」
歯科医(52歳)を中心とする三世帯家族。姑(77歳)が嫁(39歳)を殺害する。姑は日頃から嫁に虐げられていた。
みんな大好き嫁姑問題である。最初は姑のほうが強く、のちに嫁が逆転したという感じかな。姑の老衰を受けて、“嫁”から“鬼嫁”にクラスチェンジしたわけだ。本来だったら夫が仲裁に入るべきなんだけど、どうも彼はマザコンの気があるようで、前妻(*2)との破綻も嫁姑問題にあったという。しかも、この歯科医は職場に盗聴器を仕掛ける異常性格者だった。こういうのを読むと、核家族は正しい選択なんだと思う。
「稚内冷凍庫夫絞殺事件」
ホステス(40歳)が夫(50歳)を絞殺、遺体を冷凍庫に保管し、4年半経ってから発見される。また、生まれたばかりの実子も始末していた。
女の殺人犯で目立つのが浪費癖だ。贅沢のために借金を重ねる、言ってみればウシジマくん【Amazon】の顧客みたいなタイプ。『黒い看護婦』なんかはもろにそうだったし、婚活殺人事件の被疑者もその典型である。何で歯止めがかからないのだろう? 前頭葉がぶっ壊れているんだろうか? 気になる傾向である。
「さいたま実娘拷問殺害事件」
31歳の夫と24歳の妻が、2歳の娘を虐待して死亡させる。
例によってこの妻は生育環境が悪く、生まれながらにして犯罪者になることを義務づけられている。
ただ、妻以上に問題なのが夫の存在だ。公判中に行われた心理鑑定によると、夫は「小学3年程度の知能」だという。似たもの同士が夫婦になるとはいえ、すごいのが揃ったものである。
「青梅姉妹バラバラ殺人事件」
40歳の女が同居していた姉(44歳)を絞殺、遺体を電動のこぎりでバラバラにする。
旦那の保険金でボーイズバー遊びとはえらい豪儀だな。趣味を持つんだったら金のかからないやつが良いぞ。読書なんかどうだね。
>>『殺戮者は二度わらう』【Amazon】へ
2010.2.18 (Thu)
◆『名探偵ポワロ 完全版 Vol.3』(1989/英)

★★★★
Agatha Christie: Poirot
デビッド・スーシェ / ヒュー・フレイザー / フィリップ・ジャクソン / ポーリン・モラン / スザンヌ・バーデン / フランシス・ロー
ハピネット・ピクチャーズ
単品 【Amazon】 / BOX(16枚組) 【Amazon】
「4階の部屋」、「砂に書かれた三角形」の2編。
Vol.2の続き。
第5話「4階の部屋」"The Third Floor Flat"
ポワロが自宅兼事務所として使用しているマンションで、女性の射殺死体が発見された。現場にはイニシャルの入ったハンカチと、男性の名前が書かれた手紙が残されている。事件当日、被害者は上の階の住人と接触しようとしていた。その住人は大音量で音楽を流している。
クリスティらしいトリッキーな話だった。騒音問題を示唆する冒頭のエピソードがあったらこそ、女性が被害に遭ったのが意外に思える。というのも、通常の流れだったら騒音を出したほうが殺されていたはずだから(それと同時に、女性が当面の被疑者になったはず)。『サイコ』【Amazon】で主人公と思われる女が殺されたときのような、ちょっと奇妙な印象を受けるのである。ただ、このエピソードは実はミスディレクションで、背後には別の事情が隠れていた。ホームズものにはこういう小技がなかったので、けっこう驚いたのだった。
犯人の回想シーンを見ると、被害者は殺されても仕方がないような気がする。夫婦仲は冷えきっているのに、嫌がらせのために離婚しないとは……。何となく大澄賢也と小柳ルミ子を思い出した。
終盤はヘイスティングスの車が大破、あまりのショックで彼は幽鬼のようになっていた。しかし、この悲劇(?)も上手く前半と繋がっていて、最後は心温まるものになっている。
第6話「砂に書かれた三角形」"Triangle at Rhodes"
ロードス島に単身でやってきたポワロ。現地で2組のカップルが三角関係になり、そのうちの1人が毒殺される。
風光明媚な観光地で色恋にまつわる殺人事件が起きる──つまり、ポワロものの黄金パターンである。
撮影は異国情緒を意識しており、黒シャツ党が出てくるところに時代性が表れている。言語の違いから市井の人たちと満足に会話ができず、いつもより捜査の難易度が上がっているのだけど、結局はドラマらしい流れで万事クリアしている。
まあ、普通の観光ミステリ。既視感ありまくりだった。見所はポワロのサングラス姿かな。
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