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- 21 : ジョエル・コーエン『オー・ブラザー!』(2000/米)
- 25 : トマス・ピンチョン『ヴァインランド』(1990)
- 27 : つげ義春『鬼面石/一刀両断』
- 29 : 『名探偵ポワロ 完全版 Vol.4』(1989/英)
2010.3.21 (Sun)
◆ジョエル・コーエン『オー・ブラザー!』(2000/米)

★★★★★
O Brother, Where Art Thou?
ジョージ・クルーニー / ジョン・タトゥーロ / ティム・ブレイク・ネルソン / ホリー・ハンター / ジョン・グッドマン / チャールズ・ダーニング / クリス・トーマス・キング
東北新社 【Amazon】
1930年代のミシシッピー州。刑務所で服役中の3人(エヴェレット=ジョージ・クルーニー、ピート=ジョン・タトゥーロ、デルマー=ティム・ブレイク・ネルソン)が、屋外労働の最中に脱走する。彼らは追っ手をかわしつつ、宝の在処に向かって旅をするのだった。
カントリー・ミュージックをふんだんに盛り込んだロードムービー。これは完璧な映画と言っていいんじゃなかろうか。セピア色の映像とおらが国の音楽、そして漫画のような癖のあるキャラたちが、トールテール的な筋書き(『オデュッセイア』【Amazon】がクレジットされている)のもとでがっちり噛み合っている。『イージー・ライダー』や『ブルース・ブラザーズ』【Amazon】とはまたひと味違った、いかがわしい信仰の世界。テーマパークとしてのアメリカ南部を舞台に、躁鬱病の銀行強盗やKKKの集会など、次々と奇妙なイベントが繰り出されている。独特のゆりかごのような雰囲気が心地よかった。
それにしても、牛の扱いにはまいっちゃうね。牧草地でのんびり佇んでいるところをマシンガンで蜂の巣にされているし(しかも撃ってる奴は最高にハイ!)、かと思えば、別の牛ちゃんは道路に迷い込んだところをパトカーに体当たりされている。これ、動物愛護団体からクレームがついてもおかしくないよなあ……。チーズのようにぼこぼこ穴があいたり、轢かれたときにどすっと音がしたり、理不尽に巻き込まれている様子が可笑しかった。
2010.3.25 (Thu)
▲トマス・ピンチョン『ヴァインランド』(1990)

★★★
Vineland / Thomas Pynchon
佐藤良明 訳 / 河出書房新社 / 2009.12
ISBN 978-4309709635 【Amazon】
1984年。ヒッピー親父のゾイド・ホィーラは、娘のプレーリィと森の中で暮らしていた。そこへ検察官のブロック・ヴォンドが迫ってくる。親子は別々に逃走し、娘は幼いときに別れた母を探しに行く。母には学生運動にまつわる秘密があった。さらに、くノ一のDLやカルマ調整師のタケシが関わってきて……。
ウエスト・コーストを舞台にしたご機嫌なメガノベル。ヒッピー文化を筆頭に、テレビ番組やロック音楽、果てはゴジラやニンジャなど、サブカルチャーの海にどっぷり浸かっている。登場人物も一筋縄ではいかない弾けた性格で、まるでアメコミから飛び出してきたかのよう。ヒッピーからくノ一まで、それぞれの過去と現在が交錯し、複雑で猥雑な物語を展開している。ユーモアを基調にしたポップな感覚は、コーエン兄弟に通じるものがあるかもしれない。映像化するとしたら、コーエン兄弟製作によるテレビシリーズ(全10回くらい)がぴったりだと思う。
ジョージ・オーウェル以来、「1984年」は特別な意味を持つようになったけれど、同じ年を舞台にした本作でも、権力の暴走が重要なファクターになっている(ちなみに、新訳版『一九八四年』【Amazon】にはピンチョンの解説が載っている)。といっても、コミカルなタッチなのであまり深刻さは感じない。小市民的な欲望のために個人を蹂躙する検察官がいて、彼が振るう権力の魔法はほとんどギャグの領域に達している。面白いのは、そんな権力者も実は無敵ではないところだ。権力とは天から授かったものではなく、周囲から委任されたものである──このようなごく当たり前の原則が浮上し、検察官はあっさりラスボス的地位から転げ落ちている。
牽引力のある小説ではあるけれど、話がゾイドに戻ってからが退屈だった。因縁が見えて興味が半減したというか。それと、はしゃぎすぎの翻訳は好き嫌いが別れるかも。私はちょっとしんどかった。
2010.3.27 (Sat)
▽つげ義春『鬼面石/一刀両断』

★★★★
ちくま文庫 / 2009.6
ISBN 978-4480425492 【Amazon】
短編集。「盲刀」、「鬼面石」、「落武者」、「忍びの城」、「一刀両断」の5編。
つげ義春コレクション9。この巻は自選の時代劇を収録している。
以下、各短編について。
「盲刀」(1960)
盲目の浪人が、仕官の条件として辻斬り退治を命じられる。その辻斬りは浪人の隣人であり、酒を酌み交わす友人でもあった。浪人は妻を楽にさせてやりたかったものの、友人は殺せないとして仕官を断念する。ところが、辻斬りは何者かに殺された。
宮本武蔵きたー。グレートはグレートを知るという感じの盛り上がりが良い。出会った瞬間からお互いの力量を認め合い、不可避的な対決に向かっていく。『座頭市』【Amazon】の例を挙げるまでもなく、盲目の剣士には何か超越的なものが感じられるんだな。浪人は一度も剣を振るってないのにとても強そうに見える。
「鬼面石」(1960)
戦国時代の美濃。醜い顔が原因で投獄された十万が、侍に引き取られて慰み者になる。そんななか、飯炊き女にやさしくしてもらうが……。
これは傑作。十万の受ける仕打ちが恐ろしく理不尽で、まさに悲劇のジェットコースターになっているのだけど、とりわけすごいのがラストだ。「地獄に仏」から一転してずたずたのぼろぼろになっている。しかもまったくの絵空事というわけでもなく、人間の本質を的確に表しているのだからやりきれない。これを読んだら、「裏切りは女の特権さ」(by ルパン三世)なんて口が裂けても言えないだろう。すべての男子必読である。
「落武者」(1961)
負け戦のあとの戦場。運よく助かった足軽が、隠れていた殿と合流し、一緒に逃げることになる。
人は侍に生まれるのではない、侍になるのだ。侍であることは究極の痩せ我慢だから、落ち目になると哀れをもよおす。わしゃ百姓でよかったわい。
「忍びの城」(1963)
下級武士が城主の影武者になる。自分の境遇に不満を持った影武者は、主君を殺して取って代わろうとするが……。
オイディプス的な皮肉。神話の構図っていうのは、どこに適用してもそれなりにしっくり来るから侮れない。
ただし、『海辺のカフカ』みたいなのは駄目である。
「一刀両断」(1965)
据物斬の達人・雲母陣十郎が、その腕を見込まれて藩主から刀をもらう。しかし、雲母は藩の剣術指南役から憎まれ、取り返しの付かない不利益を被る。復讐に燃えた雲母は彼を斬殺し、出奔することになった。
まあ、こういう人を食ったようなのも良いね。漫画ならではの面白さ。
2010.3.29 (Mon)
◆『名探偵ポワロ 完全版 Vol.4』(1989/英)

★★★★
Agatha Christie: Poirot
デビッド・スーシェ / ヒュー・フレイザー / フィリップ・ジャクソン / ポーリン・モラン / シーラ・アレン / ジョン・ストライド
ハピネット・ピクチャーズ
DVD-SET1 【Amazon】 / 全巻DVD-SET(32枚組) 【Amazon】
「海上の悲劇」、「なぞの盗難事件」の2編。
Vol.3の続き。
第7話「海上の悲劇」"Problem at Sea"
自分の富を鼻にかけて傲慢な振る舞いをする老女と、彼女に付き従う夫。エジプトに停泊中の船内で老女が殺される。夫にはアリバイがあった。
前回(「砂に書かれた三角形」)がポワロの一人旅だったのに対し、今回はヘイスティングスを同伴している。元軍人のヘイスティングスはばりばりの体育会系で、話題といったら射撃大会のことばかり。女心をわきまえないKYな人として、ポワロから愛情たっぷりのからかいを受けている。
この回はトリックが見事だった。実写の力というべきか、種明かしの演出が素晴らしく、ちょっとしたイリュージョンになっている。お人形を提供したお嬢ちゃんも可愛かった。当初は無表情のクソガキっぽかったのに、喋ってみると表情豊かで実に愛らしい。俗に「イギリス女に美人なし」というけれど、子供の頃はけっこう可愛いんだな。それが思春期になると急激に劣化してしまうようで、この回に出てきた妙齢女子2人組はちょっと微妙だった。特に片方は二の腕が太くてたじろぐ。「ぷにぷに」というよりは「ぶよぶよ」なのである。若気の至りとはいえ、この体型で肩を出すのは勇気がいるような……。
第8話「なぞの盗難事件」"The Incredible Theft"
パーティーの最中、軍用機の設計図が盗まれた。客のなかにドイツと通じているヴァンダリン夫人がおり、当初は彼女の犯行と目される。ところが、身体検査をしても設計図は出てこなかった。
お洒落なポワロは服装の手入れに余念がない。この回では靴磨きをしながらヘイスティングスに蘊蓄を垂れている。何でも、ワセリンを塗るとひび割れが防げるとか。ポワロは日曜大工のお父さんのような出で立ちで、ずいぶん凝り性なんだなと思った。
カーチェイスきたー。ヘイスティングスがポワロを助手席に乗せ、得意のドライヴィングテクニックで車を追いかけている。「灰色の脳細胞」を誇るポワロは、アクションもこなすホームズとは違い、ほぼ頭脳労働に特化した専門仕様である。だから、こういう肉体派の相棒は重宝するのだ。おまけにハンドルを握ったヘイスティングスは知力も向上、ポワロより一歩先の思考を展開している。今回はいつになく頼もしかった。
ヴァンダリン夫人がセクシーすぎてまいった。豊満(≠肥満)なボディのうえに、背中が大きく開いたドレスをまとっている。さらに、悪女っぽい雰囲気がたまらなく良い。女盛りの魅力をたっぷり堪能した。
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