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2010.4.3 (Sat)
◆『名探偵ポワロ 完全版 Vol.5』(1989/英)

★★★★
Agatha Christie: Poirot
デビッド・スーシェ / ヒュー・フレイザー / フィリップ・ジャクソン / ポーリン・モラン / ナイアム・キューザック / アラン・ハワード
ハピネット・ピクチャーズ
DVD-SET2 【Amazon】 / 全巻DVD-SET(32枚組) 【Amazon】
「クラブのキング」、「夢」の2編。
Vol.4の続き。
第9話「クラブのキング」"The King of Clubs"
悪辣な映画プロデューサーが自宅で何者かに殺された。第一発見者は彼の映画に出演している女優で、死体を発見後、驚きのあまり隣家に駆け込んでいる。女優はプロデューサーからセクハラを受けていた。
現場のちょっとした食い違いから、関係者の心理を引き出していく。クリスティはこういうのが上手いねえ。作為的な小技を経由しているからこそ、とってつけたような背景もあまり気にならない。ブリッジのカードが、表のストーリーと裏のストーリーの橋渡しをしている。
無骨者と思われたヘイスティングスだけど、どうやら芸術にも関心があったみたい。この回ではモダンアートについてポワロに蘊蓄を垂れている。いやー、意外だったね。てっきりスポーツにしか興味ないんだと思ってたよ。さすが英国紳士だ。
最後は変化球のようで実は王道というか、「探偵ものには一話くらいないとね」みたいな結末。ポワロものにもとうとうきた。すなわち、名探偵による粋な計らいである。ワトスンはホームズに「あんた何様?」とツッコミを入れていたけれど、このドラマのヘイスティングスは何も言わない(言わせてもらえない)。何か言いたそうにしながらも黙ったままエンディングを迎えている。2人で撮影所から出るとき、お互い反対方向に行こうとして、ポワロが行き先を修正しているのが良かった。テレビドラマならではのさりげないやりとり。
第10話「夢」"The Dream"
ポワロが大会社の社長から相談を受ける。何でも、自殺する夢に悩まされているという。やがて社長は夢の通りに死んでしまった。一見すると自殺に思えたが……。
だんだんジャップ警部が好きになってきたよ。喜怒哀楽を表さない猟犬みたいな顔つきがチャーミングだし、捜査のときはちゃんとポワロを立てているし。引き立て役の警部というのは、役目上無能を演じなければならないから、頻繁に出すと職業人としての資質が問われてしまう。この男は探偵がいないと何もできないのではないか? ロンドンは冤罪や未解決事件に溢れているのではないか? でも、最近のジャップはわりと有能そうに見えてびっくり。ポワロと役割を分担し、警察にしかできない仕事を忠実にこなしている。
事件については演出が演出なので、変装ネタであることは容易に見当がついてしまう。ただ、その奥にある殺害方法は意外だ。シンプルかつ巧妙な物理トリックなのである。こういうのはたぶん活字で読んでもインパクトないだろう。地味なうえに図がないと分かりづらいから。3次元で実演するからこそ驚きがある。
それにしても、ポワロの英語は面白いね。エビアン! ボン! モナミ! と外国語を交えながらしゃべっている。ひょこひょこ歩きも板についてるし、デビッド・スーシェは完璧な演技だ。
>>Vol.6へ
2010.4.5 (Mon)
▲ジョセフ・E・スティグリッツ『フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのか』(2010)

★★★
Freefall / Joseph E. Stiglitz
楡井浩一 峯村利哉 訳 / 徳間書店 / 2010.2
ISBN 978-4198629137 【Amazon】
急降下(フリーフォール)したグローバル経済について。ウォール街や政府、FRBなどを批判している。また、ここ四半世紀の自由市場主義を否定し、市場には規制が必要と説いている。
サブプライムローン問題に端を発したアメリカの経済危機を鳥瞰するのに役立つ。要約すると、金融に関わる全ての機関に問題があったということ(←要約しすぎ)。さらに、現在進行中であるオバマ政権の対策にも問題があるという。提言としては、消費喚起よりも投資に集中すべきとか、銀行の透明性を高めるべきとか、総じて理想主義的なことを言っている。
わたしたちのほとんどは、自分が、有力な経済モデルの根底をなす人間観、つまり打算的で、合理的で、自己利益を追求する、利己的な個人という人間観に従って行動すると考えることを好まない。この人間観には、人に対する共感や公共心、利他主義などの入り込む余地がない。経済学で興味深いのは、経済学のモデルの描写がほかならぬエコノミスト自身にうまくあてはまるという点であり、学生が経済学を学ぶ期間が長ければ長いほど、ますますモデルに似てくるのだ。(p.349)
これは身につまされる人が多いんじゃなかろうか。具体的な顔がちらほら思い浮かぶ。
2010.4.6 (Tue)
△ジョン・マクガハン『湖畔』(2002)

★★★★★
That They May Face the Rising Sun / John McGahern
東川正彦 訳 / 国書刊行会 / 2010.1
ISBN 978-4336051721 【Amazon】
老後を過ごすためにロンドンからアイルランドの田舎に引っ越してきたラトレッジ夫妻。昔ながらの地域共同体で、地に足のついた生活を送る。
これは渋かった。田舎の濃密なエキスをじっくり味わうような内容で、「円熟の筆致」という言葉がしっくりくる。農村に根付いた住民たちはそれぞれ歳を重ねており、堆積した物語が集まって独特の磁場を形成している。ある者は事業からの引退を考え、ある者は農奴同然の身分から自由になり、ある者は女たらしの問題児として周囲を騒がせている。小説としては群像を収めるのが中心で、特に強力な導線はない。しかし、穏やかな海も常に波で揺れているように、日々の営みにはささやかな事件が生起している。これはまあ、抑制の利いた良い意味で退屈な小説だった。満員電車でせかせか読むような本ではなく、休日に日向ぼっこしながらゆっくり読むような本。アイルランドの農村が重厚な形を持って現れている。地味なのに高踏的でないところが良かった。
2010.4.7 (Wed)
◆『名探偵ポワロ 完全版 Vol.6』(1990/英)
![名探偵ポワロ[完全版]Vol.6(111x160)](./img/51fgsAHencL._SL160_.jpg)
★★★★
Agatha Christie: Poirot
デビッド・スーシェ / ヒュー・フレイザー / フィリップ・ジャクソン / ポーリン・モラン / ポリー・ウォーカー
ハピネット・ピクチャーズ
DVD-SET2 【Amazon】 / 全巻DVD-SET(32枚組) 【Amazon】
「エンドハウスの怪事件」の1編。
Vol.5の続き。
第11話「エンドハウスの怪事件」"Peril at End House"
セントルーで休暇を送るポワロとヘイスティングスが、近くに住む令嬢とお知り合いになる。令嬢は何者かに命を狙われていた。護衛するポワロたちだったが、花火大会の夜、令嬢の友人が射殺死体で発見される。どうやら人違いで殺されたようだった。
長編のわりには間延びしておらず、最初から最後まで飽きずに観ることができる。ゴルフに出ようとしたヘイスティングスがポワロに窘められたり、助っ人にきたミス・レモンが霊媒師の役を振られたり、いつもとは違ったやりとりが見られて面白い。また、ヘイスティングスとミス・レモンがけっこう仲良しであることや、ジャップ警部のファーストネームが「ジェイムズ」であることなど、意外な事実も判明している。
事件はかなりトリッキーだ。偶然によって複数の思惑が結びついており、最初に出てきた死体は氷山の一角にすぎない。今回はパズラー要素が強く、ドラマとしては拍子抜けする部分もあるけれど、そのぶん舞台裏を暴く愉しみが存分に味わえる。恋文から不審な点を見つけるなんてさすが名探偵だ。おまけに、今回は女性の下着まで漁っている。ミステリとは覗き見趣味であることを再確認した。
ところで、このシリーズのオープニングはよく出来ていると思う。ジャズ風のしっとりとした音楽をバックに、銃や虫眼鏡、列車(オリエント急行?)といったミステリのアイコンが登場、これから始まるドラマを期待させるような作りになっている。掴みとしては上々で文句ないのだけど、ただ、一部シュールすぎる映像が……。


何だこりゃ? ポワロの顔が何とも形容しがたい形に弄られている。この特殊効果は想定外だよなあ……。幻想的な味付けが妙な方向に行っていて、毎回毎回不気味に思いながら観ている。
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