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2010.5.5 (Wed)
▲岩間夏樹『若者の働く意識はなぜ変わったのか』(2010)

★★★
ミネルヴァ書房 / 2010.4
ISBN 978-4623056460 【Amazon】
中流意識の崩壊した現代社会では、消費のスタイルと働く意識が大きく変化した。企業戦士からニート・フリーターへ。団塊世代と団塊ジュニアにスポットを当て、両者の差異を分析する。
高度消費社会は、必ずしも必要不可欠でないモノを際限もなく買い続けることを正当化する物語を常に用意してきた。人々はこれまでとは逆に、何が消費生活のミニマム・リクワイア(必要最低限の水準)であるかを探求し始めたように思える。(p.18)
モノに溢れた世代だからモノに執着しないというストーリーはまったくピンとこないけれども、それ以外はかなり的確だと思う。経済成長というバラ色の未来があった昔とは違い、フリーフォールの現代では相応の生き方が必要になった。若者は良くも悪くも環境に適応し、搾取的な社会と無言の戦いを演じている。「節約は美徳」「贅沢は敵だ」「欲しがりません勝つまでは」。先の見えない不況は大和魂(笑)で乗りきるしかない。現代人は、他人に金を使わせて自分は使わないという一種のゲームに興じている。
関連記事。
2010.5.6 (Thu)
▲タラ・ハント『ツイッターノミクス TwitterNomics』(2010)

★★★
The Whuffie Factor / Tara Hunt
村井章子 訳 / 文藝春秋 / 2010.3
ISBN 978-4163724003 【Amazon】
ソーシャルネットワーク時代のマーケティングを題材にしたビジネス書。サイバースペースではユーザーと同じ目線に立ち、彼らとのコミュニケーションで好意を勝ち取ることが必要だと説く。
情けは人のためならず、行為の互酬性、ギブアンドテイク。この手の本は『人を動かす』【Amazon】の時代からあまり変わってないみたいだ。世間のためコミュニティのため身を粉にして貢献する。みんなハッピー、わたしもハッピー、ハッピーうれピーよろピくね♪ この強迫観念のようなポジティヴさがたまらなく恐ろしい。そこには多様な価値観を許さない独善が隠れている(ような気がする)。しかし、成長を重視する現代ではこういうアメリカ的思考がますます主流になってくるのだろう。そこかしこで「自己実現!」「自己実現!」と連呼する。自己実現しない奴は悪と認定され、無言の圧力で排除される。誰もが自己実現できるわけでもないのに……。こりゃ普通の人は生きづらいわ。
2010.5.7 (Fri)
◆『名探偵ポワロ 完全版 Vol.9』(1990/英)

★★★★
Agatha Christie: Poirot
デビッド・スーシェ / ヒュー・フレイザー / フィリップ・ジャクソン / ポーリン・モラン / アダム・コッツ / ジェニファー・ランドー
ハピネット・ピクチャーズ
DVD-SET3 【Amazon】 / 全巻DVD-SET(32枚組) 【Amazon】
「二重の罪」、「安いマンションの事件」の2編。
Vol.8の続き。
第16話「二重の罪」"Double Sin"
引退宣言したポワロが、ヘイスティングスを連れて田舎旅行へ。細密画の盗難事件に遭遇するも、引退を理由に手を出さない。代わりにヘイスティングスが事件に挑む。
数々の難事件を解決した名探偵は時代のヒーローだ。警察が逃した(かもしれない)巨悪をピンポイントで捕まえているだから、その社会的価値は計り知れない。ホームズとポワロが面白いのは、彼らが作品世界で有名なところだろう。警察関係者はおろか、かたぎの衆にまで名を知られ、ちょっとした英雄になっている。ただ、ホームズは自分の名声にあまり頓着していなかったけれど、ポワロはかなり気にしている様子。相手が自分のことを知っていれば機嫌が良くなり、知らなければむっとしている。
で、そういうプライドの高さがいい感じに表れたのが、今回のエピソードだ。詳細は観てのお楽しみとして、この回のポワロときたら可愛いの何の。超人的活躍とは裏腹の、デリケートな内面を見せている。いやー、名探偵も人間だったのだなあ。ラストは最高に微笑ましいし、途中で髭についてカミングアウトしているし、ファン必見のエピソードだと思う。
第17話「安いマンションの事件」"The Adventure of the Cheap Flat"
格安の家賃で部屋を借りた夫婦。どうやら国際スパイ事件が関係しているようだった。ロンドン警視庁とFBIが捜査チームを組む。
ポワロ、ヘイスティングス、ジャップ警部が、仲良く映画を鑑賞している(ホント、この3人は仲良いな!)。内容は泣く子も黙るギャング映画だ。3人は派手な銃撃戦を前に緊張の面持ち。ポワロに至っては目を塞いでやりすごしている。
ポワロ世界にアメリカ式の暴力が入ったらどうなるか? というわけで、今回はFBIのタフガイが登場、やや戯画化された調子でドラマを盛り上げている。何かあるとすぐに拳銃を取り出すFBIは、アール・デコ風の上品な雰囲気にそぐわない。イギリスとアメリカの違い、あるいは本格推理とハードボイルドの違いが明瞭になっている。
ジャップ警部は良い奴だなー。前回に続いてこの回でもポワロを立てている。2人のさりげない友情にちょっと癒されたよ。やはりこのシリーズはキャラの掛け合いが好ましい。
>>Vol.10へ
2010.5.9 (Sun)
▽トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』(1966)

★★★★
The Crying of Lot 49 / Thomas Pynchon
志村正雄 訳 / ちくま文庫 / 2010.4
ISBN 978-4480426963 【Amazon】
夫と2人暮らしの女性エディパが、富豪だった元恋人の遺言で、彼の遺産管理執行人になる。調査をしていくと、謎の郵便ネットワークの影がちらついてきた。その組織は中世にまで遡る秘密結社だという。
普通に面白かった。陰謀に一歩足を踏み入れた途端、玉ねぎのように世界の裏側がめくれてくる。現実と妄想の間というよりは、空間が別の位相にドライヴしているような感じ。フリーメーソンやテンプル騎士団に匹敵するもうひとつの世界史が現れ、癖のある人たちと関っていくうちに、夫までが不確かな存在になってしまう。豊富な訳注もそれ自体が読み応えのある別の物語を紡いでいて、破天荒な文学空間に引き込まれた。
「殺すも生かすもウィーンでは」(1959)"Mortality and Mercy in Vienna"
ユダヤ人のシーゲルが、ひょんなことから見知らぬ集団の饗宴に紛れ込む。女の子と親しく話すシーゲル。しかし、集団のなかに1人メランコリアの男がいて……。
ハイパー文学クリエーターの第一歩を記した記念碑的作品。