2011.6b / Pulp Literature

2011.6.12 (Sun)

水木しげる『のんのんばあ物語』(1995)

のんのんばあ物語

★★★
ちくま文庫 / 1995.7
ISBN 978-4480030658 【Amazon

アンソロジー。「黒姫山の主」、「きつねの座布団」、「天かける舟」、「ほとけかずら」、「イボ神さま」、「妖怪屋敷」、「死声」、「死に神マボロシちゃん」、「魔女花子」、「奇妙なプレゼント」の10編。

妖怪ワンダーランドの5巻目。

以下、各短編について。

「黒姫山の主」

黒姫山で遊んでいた子供たちが化物に食べられた。のんのんばばあが救助に乗り出す。

山の忌日や太古のしきたりなど土着の習慣にはぞくぞくするね。黒姫を殺した奴が新たに黒姫になるって何ていう無限ループ。山の主も所詮はシステムの一部にすぎない。

蓮っ葉な都会娘が実は魔女っ子っていうのも良い。悪徳に惹かれるその変人ぶりはいくぶん病的だったし。猫目キャラには要注意だ。

「きつねの座布団」

のんのんばばあが女に取り憑いた管きつねを追い出す。それを恨んだ管きつねは豆だぬきと手を組み、のんのんばばあの家から人魚の肉を盗もうとする。

上品なお爺さんと会うということで、一丁前におめかししているのんのんばばあ。途中で気づいたとはいえ、まんまと妖怪に騙されている。このおばば、デキる奴なんだかヌケてる奴なんだかよく分からない。

「天かける舟」

富士の樹海で「神」が復活。のんのんばばあの孫を誘拐する。

活劇ありSFありで面白い。二等身のちんちくりんが「神」だなんて……と思っていたら、驚きの展開が待っていた。

亡者たちがマンションに押し寄せている絵がなかなかシュール。墓場の住人が生活空間に堂々と出張ってきている。それと、「神」が従えている「日本の王」が、NHKの某マスコット【Amazon】みたいでツボだった。なるほど、茶色いアレは妖怪だったのね。

「ほとけかずら」

道に迷った漫画家が民家にたどり着く。そこの主には若い妻がおり、彼女は幽霊だという。その後、漫画家は一人で山に入り、かずらに捕まってしまうのだった。民家の主はのんのんばばあの助けを仰ぐ。

死んだ人間の恨みが形象化するという分かりやすい構図。妖怪のデファクトスタンダードである。

「イボ神さま」

少年が自宅の便所で奇妙な生き物を発見した。医者に見せると、そのままでは栄養がとれないから死んでしまうという。少年は自分の腕にその生き物を注射して寄生させる。

霊魂と参拝のメカニズムには目から鱗が落ちた気分。迷信も理屈が通ると途端に面白くなる。

「妖怪屋敷」

少年が妖怪屋敷に乗り込む。色々あった後、霊的存在となって辺りをさまよう。

日本人っていうのは、ご先祖様が見守ってるって思わないとやってけないみたい。

「死声」

夏休み。昆虫採集で道に迷った少年が山小屋に辿りつく。そこの主はキリギリスの研究者だった。彼はキリギリスの声を解読しているという。

妖怪ものだと思っていたらホラーだった。自然しかない山奥の恐怖。虫の群体はかなり怖いぜ。

「死に神マボロシちゃん」

少年が死神の子供に出会う。

石のハンマーで人間をポカポカ叩いて回るマボロシちゃん。1回叩くと病気(もしくは怪我)になり、2回叩くと死に至る。ターゲットは特に決めていないようで、老若男女を問わず気の向くままに狩りを楽しんでいる。どうやら人間の生き死には適当みたい。

「魔女花子」

毒団子を犬に食わせた少女は魔女の娘だった。導師が魔除けを行う。

日本の街並みに西洋の魔女が入り込んでいて、それを日本の導師が箒で払うように他所へ追いやるという異文化対決(ただし、魔女は不在)。鼻からエクトプラズムを放出する導師が素敵だ。

ここでも魔女は猫目キャラ。

「奇妙なプレゼント」

新婚夫婦が魔女から家をプレゼントさせる。そこは四角を基調にしたへんてこな建物だった。夫婦は住んでいるうちに四角くなっていく。

笑福亭仁鶴を思い出したのは私だけではあるまい。ここはまあるく収めたいところだ。

>>Author - 水木しげる

2011.6.15 (Wed)

ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』(2007)

オスカー・ワオの短く凄まじい人生

★★★★★
The Brief Wondrous Life of Oscar Wao / Junot Diaz
都甲幸治 久保尚美 訳 / 新潮クレスト・ブックス / 2011.2 / 全米批評家協会賞 ピュリッツァー賞
ISBN 978-4309205595 【Amazon

アメリカ在住のドミニカ人オスカー・ワオは、SF・アニメ・TRPGなどに耽溺するナードだった。肥満体の彼は女にモテず、童貞のまま青春を過ごすことになる。童貞をこじらせ狂気を募らせていくオスカー。彼の一族にはトルヒーリョにまつわる凄惨な歴史があり、オスカー自身も過酷な運命に向かっていく。

だが真実が何であれ、覚えておいてほしい。ドミニカ人はカリブ海の住人であり、ということはとてつもなく異常な出来事に対しても並外れた許容度を示すということを。(p.183)

SF小説を読み漁り、『AKIRA』のビデオを何度もリピートする──。オタク青年の生き様を面白おかしく描いたコメディかと思っていたら、途中から雲行きが激変、終わってみれば極めて重たいファミリーサーガだった。「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」ということで、語り手はオスカーに近しい人物ではあるものの、焦点になるのはオスカーだけではない。話は彼の両親や祖父母の代にまで及び、ドミニカの独裁者ラファエル・トルヒーリョの悪徳をえぐり出すまでに至っている。この小説の何がすごいって、まず粗野にして繊細な語りの熱量であり、さらにはサブカルと政治を結びつける文学的野心だろう。その迫力は、同じ人物を題材にした『チボの狂宴』がハリウッドの子供だまし映画に見えるほど。ドミニカにとってトルヒーリョとは何だったのか? 彼はあまねく大衆に何をもたらしたのか? 本作は「呪い」と化した恐怖を地を這う実感として描ききっている。バルガス=リョサもこんな志の高い小説を突きつけられたらぐうの音も出ないんじゃなかろうか。そう思うくらい両者は文学としての格が違っていた。

本作は苛烈なファミリーサーガであると同時に、キモオタを主人公にした童貞小説でもある。現在、オタクといえば『けいおん!』『らき☆すた』にはまる萌え豚だったり、ホモソーシャルなノリを強要するマチズモの権化だったりするけれども、われらがオスカーは昔気質のSFオタである。時代が時代なので美少女アニメには遭遇していないし、同じくエロゲーの洗礼も受けていない。だからオスカー程度で「オタク」と言われてもいまいちピンとこないけれども、しかしこれが原始的なオタク像、あるいはオタクの本来あるべき姿なのだろう。すなわち、特定分野のスペシャリストとしてのオタク。オスカーはただ太っているというだけで、今の萌え豚たちと比べればすこぶるまともだ。体型さえ何とかすれば知的な青年で通りそうであり、キモオタとしては小者と言わざるを得ない。やはりオタクだったら抱き枕(たとえばイカ娘【Amazon】の)にしがみつき、声優のライブで「ほあー!」と叫ばなければいかんのだ。SFにTRPGに『AKIRA』とはまことに牧歌的な時代であると言えよう。本作は古き良きオタクの生態が垣間見えてなかなか興味深い。

>>新潮クレスト・ブックス

>>Author - ジュノ・ディアス

2011.6.19 (Sun)

大友克洋『AKIRA』(1988/日)

AKIRA

★★★
岩田光央 / 佐々木望 / 小山茉美 / 石田太郎 / 玄田哲章 / 大竹宏 / 伊藤福恵 / 中村龍彦 / 神藤一弘 / 北村弘一 / 池水通洋 / 渕崎ゆり子 / 大倉正章 / 荒川太郎 / 草尾毅
ジェネオン・ユニバーサル
Blu-ray 【Amazon

2019年。第3次世界大戦から30年経った日本は、「ネオ東京」を首都に見事復興を果たしていた。そんななか、再建もままならない「旧東京」では、不良の金田(岩田光央)が暴走族を率いて日夜喧嘩に明け暮れている。ある時、メンバーの鉄雄(佐々木望)が「爆心地」付近で事故を起こし、軍の施設に連れ去られた。鉄雄はそこで超能力に目覚め、破壊の限りを尽くすことになる。

『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』に出てきたので。これと『攻殻機動隊』【Amazon】は海外で評価が高いようだけど、正直どちらもいまいちだと思う(『攻殻機動隊』はテレビシリーズ【Amazon】が良い)。まあ、時代を考えれば上々のアニメーションではあるけどさ。絵に関しては現代でも通用しそうではある。

サイバーパンクというよりはただのパンクといった感じ。荒廃した世界が用意され、そこで破壊と殺戮のヴィジョンがたっぷり示される。超能力で人がバタバタ死んでいくのが気持ち良いし、やたらと破壊力のある兵器をぶっぱなすのも爽快。鉄雄の肉体が崩壊するシーンや、「AKIRA」が瓶詰めで保管されている絵面なんかも特筆に値する。総じて映像のインパクトは強かった。

ドラマ部分はちょっと投げやりだったかな。鉄雄が凶暴になって仲間をぶっ殺すというのが俄には納得できない。いくら神に等しい力を得たとはいえ、劣等感であそこまでやるかねえ? 昨日までの仲間(金田にいたっては幼馴染みだ)を殺るのはけっこうハードルが高いような気がするけど。一方で恋人には優しかったり、自分の支持者には手を出さなかったりすることから、理性を失ったというわけでもなさそうだし。ま、暴走族なんてこんなもんなんだろう。窓ガラスを壊して回り、盗んだバイクで走り出す【Amazon】。とりあえず、『オスカー・ワオ~』の主人公が自己投影しそうな感じではある。

男女関係が80年代ぽくって微笑ましい。バブル期は「不良」が格好良かった時代で、だから今でも「ちょい悪オヤジ」(もう死語になったけど)みたいな失笑ものの価値観を持て囃しているのだろう。しかも、そういう連中は決まって万引きや暴行を武勇伝のように語リ出す。オレも昔はけっこうなワルだったんだぜ、みたいな。戦後日本最大の汚点・80年代。出来ればなかったことにしたい時代である。

と、それはともかく、本作は男女関係をはじめとして、キャラの造形に80年代テイストが感じられるのは確かだ。アニメーションはわりと新しいのに、こういう部分だけ古臭くてびっくりする。

某SF映画【Amazon】をなぞったようなラスト(演出がそっくり)にはがっかり。いや、なぞるのは構わないのだけど、せめてもう少し上手いなぞり方をしてほしかった。これじゃあ同人レベルである。